昔、俺がまだアントーニョのとこで暮らしていた時のことだ。
ある日、アントーニョがフランシスから貰ったっていうケーキをおやつに出そうとしてくれた。
「チョコレートケーキといちごのショートケーキ。どっちがえぇ?」
しっとり焼き上げたチョコスポンジになめらかなチョコレートクリームを挟んだ濃厚なショコラも、
ふわふわスポンジにどこまでも甘い真っ白な生クリームといちごがたっぷり挟まれさらに
女王の如く君臨する大きな苺が乗ったショートケーキも、どっちも美味しそうで。
「両方、食べたい!」
「えぇー。もう、ロヴィーノは欲張りさんやねぇ…。」
だって、美味しいものは両方欲しいだろ。
***
「なぁ、次はいつこっち来れるん?」
情事の後の気だるい身体を起こして、放り出したままの鞄を手繰り寄せる。
中からスケジュール帳を取り出した。
アントーニョのところから独立した俺は、弟と共に一つの国となった。
それでも、俺とアントーニョの関係は変わらず続いている。
一緒に暮らしていた時と違って、毎日会えるわけでもないのが、
少しだけ寂しい…とは思っていても口には出せないし、出さない。
それはきっと、アントーニョも一緒だろうから。
「ん…次は一ヵ月後だな。」
「えー、でもこの日はオフやないのん?」
ひょこりとスケジュール帳を覗き込んで指摘する。
その額を軽く小突いてスケジュール帳を閉じて、鞄に仕舞いこむ。
馬鹿、覗き込んでんじゃねーよ。
「残念だな、あの日はフェリシアーノと出かける約束してんだよ。」
「えぇぇぇえええっ…フェリちゃんとは一緒に住んでるんやから
別に他の日でもえぇやん。ずっこいわぁ。」
むーっと口を引き結んで睨まれるが、そんな顔しても無駄である。
まぁでも悪い気はしない。
「羨ましいか?お前、フェリシアーノ大好きだもんな。」
「…意地悪やんなぁ。」
再度ベッドに寝転がってにやにや笑ってそう言うと、アントーニョが覆いかぶさってくる。
「フェリちゃんにばっかりずるい。俺も構ってって、言うてんの。」
ちゅっちゅっとキスをしてくるアントーニョが、また可笑しくて笑う。
あぁ、愛されるなあぁと実感する。
その昔、太陽の沈まない帝国と呼ばれたコイツは、その名の通り、
その強さで多くの国を焼き尽くさんばかりに支配したが、
その傍らで、優しい暖かさを与えられた。
まさに、太陽。
誰をもいろんな意味で引き付ける魅力を持ったこの男が、
望めば何でも手に入ったであろうこの男が、
唯一の存在として選んだものは、
この、俺だ。
何をしても上手くいかないことの方が多い、不器用で、
素直とは程遠い、可愛くない捻くれた性格。
取り柄といえば、じいちゃんが残した遺産だけ。
そんな俺を欲しいという、馬鹿な男だと思う。
「あ、アントー、ニョ…!」
「欲しい?でも、まだだめだめやで〜、もうちょい我慢してな。」
「………っ意地悪すんなっ!」
「あは、ごめんなぁ…ロヴィーの泣き顔かわえぇの。俺、めっちゃ好きやねん。」
ド変態、馬鹿、アホ、くたばれバッファンクーロ!!
存外甘いだけではないこの男に、翻弄される自分も、馬鹿だとは思うが。
それでも…好きだと思う気持ちが変わらない。
そして、これからも、変わることなんてない。
何があっても、だ。
***
フェリシアーノと住んでいるローマの家の前まで来ると、一つ息を吐いて
カギを開けて中に入った。
フェリシアーノに昼頃帰ると連絡をしていたが、今は深夜に近い。
理由は察して知るべし…だ。
明かりがついているということは、確実に起きているんだろう。
(何で寝てないんだよ、クソが…)
リビングの前を通ると、俺が帰ってきたことに気付いたフェリシアーノが
中から慌てて出てきた。
「兄ちゃん遅いよおお!」
「あー、はいはい。悪かったって。」
ぎゅうぎゅうとウザいくらいハグされて、引き剥がすのも面倒でそのまま二階の自室に入った。
「おい、コラ馬鹿弟、いい加減離れろ。脱げねーだろーが」
「ヴェっ!ご、ごめん。」
弟の拘束からやっと抜けた俺は、着ていたジャケットを脱いでハンガーにかけて、
風呂に入ろうと部屋を出ようとした、その前に。
「もういいから、お前も早く寝ちまえ。」
「う、うん…。」
珍しく歯切れの悪い返事をした弟に構うことなくバスルームに行く。
服を脱ぎ捨てて熱いシャワーを浴びながら、鏡に映った自分の身体が
誤魔化しようもないほど、キスマークだらけで、苦々しい気持ちになった。
こんなのでは当分弟の前でさえ、うかうか裸にもなれない。
(あのヤロウ…今度会ったら頭突きしてやる…)
そう思いながら、風呂から上がって、下だけ履いた格好でタオルで髪を拭きながら
リビングに入って、キッチンからミネラルウォーターのペットボトルを
取り出し、そのまま口をつけて飲んでいると、背後から誰かにぎゅっと抱きしめられた。
誰かと言っても、この家の中にいるのは、俺と弟だけだ。
「…おい、コラ。馬鹿弟!ビックリさせんじゃねーよ!離しやがれ!」
「兄ちゃん、俺…兄ちゃんのこと、大好きだよ。」
「あーそうかよ。」
俺だって、別に嫌いってわけじゃねーけど…とは、口には出さなかった。
けれど、弟は家族だからとかそういうのだけではない、と口にした。
柔い手のひらが俺の頬を包み込み、唇を押し当てられる。
「なっおい…やめろっ!」
「兄ちゃんがアントーニョ兄ちゃん大好きなのも知ってるよ。」
冷たい冷蔵庫に体が押し付けられて、再度キスをされる。
今度は優しく啄ばみながら、角度を変えながらキスをして、
歯列を割って、口内に舌が差し込まれて、逃げる俺に絡み付いて吸い上げたり
甘く噛んで刺激され、上ずった声を上げてしまう。
「…知ってるけど…俺も兄ちゃん大好きなんだ…ねぇ。」
「んぅ…ふ、フェリ シ アーノ…っ!」
つー…と指先で首筋を撫でられ、身体が震えた。
昨夜も今朝も、帰る間際でさえ、アントーニョに愛された身体は、
ちょっとの刺激にさえ感に反応を示す。
抵抗しろよ、弟だぞ。
しかも、馬鹿弟…!
ありえねぇだろ…冗談じゃねぇ。
そう言いたいのに、唇が、体が動いてくれない。
それを見て、フェリシアーノは、笑った。
「俺も、兄ちゃんのこと…愛してもいいでしょ?」
昔から、こいつは皆に好かれる、愛される存在だった。
俺が何やっても上手くいかないのに、何でも器用にこなして、
そして、常に緩い笑顔を浮かべて素直で可愛らしい容姿と性格も相まって
誰からも愛されていた。
そう、アントーニョにさえも。
(それは仕方ないこと。)
(だって、弟は神様に愛された子だから。)
それは酷くコンプレックスになって、今でさえ少しのことでも
それを刺激されると、苦しくなるのに。
(本当のところは、嫌いになんてなれない。)
そのフェリシアーノが、俺を好きだって?
愛してるだって?
神様にさえも愛されるであろう弟が?
笑いたくなるほどの優越感に浸る。
それはそれは、とても心地いい気分だった。
いつの間にか抵抗するはずの腕は、弟の首に回されていた。
天使の寵愛を受けては、最早拒むという選択肢はなかった。
咎められるだろうか。
それでも、これは俺にとっては当然のように思えたのだ。
愛に飢えているといえば、それまでだが。
***
『両方食べる!』
『はいはい、しょうがないなぁ…ほな、ぜぇんぶ食べやロヴィーノ。』
『やったぜ!』
『でも、残したらあかんよ。ちゃんと、全部食べるんやで。』
『分かった!』
甘くて少し苦味のあるショコラも、甘くてふわりと優しいショートケーキも。
欲張りな俺はどっちも欲しかったんだ。
だから、ちゃんと…残さず食べるよ。
最後まで。
・…・…・…・…・…・…・…・…・……・…・…・…・…・…・
西ロマばっかりだけど、でも伊ロマも好きで。
いや、ロマが右なら正直なんでも読めはするんだけど…
でも書くとしたらやっぱ西ロマ以外は一方通行になってしまうんですがね。
西はロマじゃないとだめだし、ロマは言わずもがなだしっていう根っからの西ロマ派なので。
しかし、そんな自分の定義とは別次元の存在、それが伊ロマである。
この兄弟がじゃれてるのが可愛すぎる。
西ロマも伊ロマも大好き。寧ろ西と伊でロマサンド美味しすぎる。
でも、それまでは西ロマも伊ロマも別次元で考えてたんだけど、
同次元に存在させたらどうなるんだろう…。
そう思って書いたら、凄い駄目な男なロマーノさんが出来ました…っていう…。
しかし、そんなロマーノさんが大好き…。←
pixivに上げている「欲張りな彼」の原型です。
2010/10/17 初出
2013/2/23 up
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