今日は弟にせがまれて久しぶりに世界会議へとやってきたが、
肝心の弟はルートヴィッヒと本田を見つけ、一目散に駆けていく様は
もはや犬としか言いようがない。
本田はともかく、ルートヴィッヒなんかと仲良くしてんじゃねぇよ!
ちくしょうがぁ!
……。
………。
『眠…。』
欠伸をしたその時だった。
「ロヴィーノォオオオオオオオオオ!!」
と、叫んだ声の主に、がばっと後ろから抱きつかれた。
その声だけで、誰だか分かってしまったので、
『うぜぇ!』と、頭突きをかましておいた。ざまーみろ!
「いたたたたた…マジ痛い!頭突きは勘弁してぇな…親分泣いてまうで…。」
「うるせー。てめーが俺の背後を取るのが悪いんだよ!」
「えぇー…せやかて、ロヴィーノが会議に出てくるやなんて…珍しいやん?」
いっつもこういうことは、フェリちゃんに任せっきりなくせに。
けど、会えて嬉しいわぁ。
などと、言いながらへらっと笑うアントーニョに、照れてそっぽを向いた。
ばかやろー。会えて嬉しいなんて、言うんじゃねぇよ!
…俺も、だなんて。俺が素直に言えるわけないから。
「…フェリシアーノが出ろってうるせーから、仕方なく、だ。」
「うん、うん。エライ、エライ。
スーツも良う似おてて男前でかっちょえぇよ〜。」
「フンッ当然だろ!」
そういう、アントーニョも…。
スーツ姿珍しいから、ちょっと格好いいじゃねぇかよ。
なんて、調子にのるから絶対言ってやんねーけど。
そんなことを思っていたら、
アントーニョはちらりと腕時計を見て、『ロヴィー』と呼んだので
目線を合わせると……なにやら物凄く嫌な笑みを浮かべていやがった。
「なぁ、会議始まるまでもうちょい時間あるやん?」
「…だから、何、だよ…。」
あまりにいい笑顔なので、少々後退りしてしまった俺の手首を
がっちり掴まえたアントーニョは俺の耳元に唇を寄せて囁いた。
「ちょっと、どっかで暇潰さへん?」
* * *
俺もどうかしてる。
「……っんん…っ」
今日は使う予定のない、誰もいない部屋に連れ込まれて
早速強く抱きしめられた。
そして悪態をつく暇もないまま、軽くキス。
挨拶がわりのようなそれを、珍しく黙って受けてやると
アントーニョは薄く笑った気がした。
「あ〜…めっちゃかわえぇなぁ〜。」
「うっせっばーか!」
「ははっロヴィーノの顔、めっちゃトマトみたやで〜。」
「うっせーっ!もうお前なんか嫌いだー!」
ムカっときたので部屋から出て行こうとすると、
後ろから腕が伸びてきて、捕まえられる。
…ちくしょう。
(あぁ、もう…どうかしてる。)
「ごめんやって、謝るから怒らんで?せやから…もう一回キスしてえぇ?」
「………っっな、こと…きっ聞くなっあほ!!」
そうやって余裕ぽいところがムカつく。
いつだっていっぱい、いっぱいなのに、俺は。
…ちくしょう。
向かい合って目を閉じると、直ぐに唇を重ねられる。
そのまま何度か軽く触れ合うと、そのうち深く、深く口付けられる。
悔しいが、こいつのキスは上手い、と思う。
こんな時ばかりは、『情熱の国』の名は伊達じゃないと思わされる。
少し苦しくなって離れようとすると、がっちりと頭を回された手が
其れを許さず、さらに口内を蹂躙される。
おい、コラ。いくらなんでも、しつこい。しつこすぎる!
胸に手を添えて押し返そうにもビクともしねぇ。
体格がそんなに変らなくなっても、敵わない。
…ちくしょうがぁ!
「…んっ…ふぅ…。」
「ロヴィ、めちゃ好きやで?」
新緑の瞳に、俺が映ってる。
(どうか、してる。)
そう思いながらも、俺は答えるかわりに首に腕を回す。
女の子が好きだ。何より大好きだ。
なのに。
本当にどうかしてる。
何よりも誰よりも。
俺はこいつ以外、愛せないんだから。
* * *
何度かキスを交わすと、漸く唇が解放された。
「う、わ…っ!」
かくんと腰が抜けて床にヘタり込んだ俺を、
アントーニョが笑って手を差し伸べた。
ちくしょうっ悔しい!
「ごめんなぁ〜。久しぶりやから、つい…。」
「しつこ過ぎるんだよっお前は!俺を酸欠で殺す気かっこのやろー!」
「せやけど、ロヴィーが可愛すぎるんが悪いんやで?」
「人のせいにすんなっこのあほトーニョがぁ!」
ごっ!と、頭突きがアントーニョの顎に見事にクリーンヒットした。
ざまーみやがれっこのやろー!
「ぐはぁっ!ちょっ…めっちゃ痛い!酷いわぁロヴィー…。」
「知るか!…お前のせいなんだからな。」
くそうっ…悔しい。
悔しいけど、でも。
「あぁ、痛い〜。…けど、もう時間やんなぁ…行くか。」
「えっ?」
「ん?行かんの?」
……こっこのやろう!
なんにも解かってませーんって顔してんじゃねぇよっちくしょうがぁ!
きょとんとした緑の瞳が見詰めてくる。
あぁっくそ…あんなキスだけで腰抜かして。
その上、その気になっちまったのも俺だけかよ!
ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう!
「っ………。」
「うわっなっなんで泣くねんロヴィー!?」
解かってる。
あと数分で会議が始まる。
その前に席についておかないと、
あのじゃがいも野郎に説教されるだろう。
あとフランシスあたりに、感づかれてによによ笑われる。
…なんてことが容易に想像できる。
だけど、火をつけられた俺の身体が熱くてしょうがない。
こんな状態で会議なんて出てらんねーよ!
「ちくしょう!全部お前のせいだ…!」
「えぇぇえ〜?!」
ぐすぐすと止まらない涙をアントーニョの指が拭う。
俺の指よりも硬くてしっかりした、けれど優しい、この手が好きだ。
「なぁ、どうやったら泣き止むん?ロヴィー…。」
「っぅ…くっ…。」
「なぁ、ロヴィー…。」
本気で困ったような顔をして、情けない声を出す。
其れが少し可笑しくて笑いたくなったが、
緩みそうになる口元を引き締めた。
「お前のせいだっこのやろー!」
「悪かったってぇ〜やから、泣かんでや〜。」
「わ、悪いって思ってるんだったら…。」
ぐっとアントーニョのネクタイを引っ張る。
それにアントーニョは驚いた顔をしたが、
俺は構わずに羞恥心を金繰り捨てて、言った。
「もっと…キス、しろ……っ!」
トマトのように紅く染まったロヴィーノの、可愛いお願いに
アントーニョの頬は見事に緩んだのだった。
… … …
そして数分後、始まった世界会議に、
アントーニョとロヴィーノの姿はなかった…。
2009年4月5日 初出
2009年9月21日 up
|