夕食を一通り食べて、フランシスがくれたというケーキを食後のデザートに食べていると、
アントーニョが飲んでいた赤いワインに目がいった。
葡萄の芳醇な香りに、興味をそそられた。
…というよりも、自分とご飯を食べる時は、あまり酒を飲んでいるところを見ない
アントーニョが、今日はイイコトでもあったのか、それを一人で楽しんでいた。
アントーニョの喉がそれを飲むたびにこくりと動くのに、何でだろう。
目が、離せない。
「なぁ…。」
「んー?なん?あ、ケーキ不味かった?ほな、フランシスに今度会ったら文句言うて…。」
「ちっげーよっちくしょー。…それ。」
「?」
アントーニョはワイングラスをテーブルに置いて、首を傾げた。
「それ?」
「ワイン!…おれものみたい。よこせコノヤロー。」
そう言った途端、アントーニョは表情を一変させた。
「あかん。これはあかん!」
「うまそうなモンひとりじめするなっこのやろー!」
「ロヴィまだ子どもやん!やから、あかん。」
「子どもあつかいするな!おれだって…!」
確かに姿は小さいが、自分は百年は生きている国なのだ。
人と同じにしないでほしい。
「それでも、俺にとってはロヴィはまだ子どもや。だから、駄目。」
今日に限らず、アントーニョはいつも子ども扱いする。
それは、まだ自分が小さいからなのかもしれないけど。
だけど。
だけど。
子ども扱いするのが、いつも気に食わなかった。
親分(宗主国)と子分(従属国)という関係だから、対等になるなんて無理だけど。
(今は。でもいつか、きっと)
眉を寄せて頬を膨らませていると、アントーニョは笑って頬をつついてくる。
「そんな顔せんで〜。(トマトみたいでめっちゃかわええけど!)」
「やめろっさわるなちくしょー!」
余計にムッとした顔しても、アントーニョは嬉しそうに、楽しそうに笑うだけなのでやめた。
やっぱり、子ども扱いかよ、ちくしょーが。
それがこんなのにも嫌なのは、きっと。
(好きだって思ってるから。)
だけど、アントーニョは鈍いから。
まったく気付いていない。
…気付かれて避けられても、困る…けど。
「めっちゃかわええロヴィーノ見てたら酒が進むわぁ…ほんまかわええ〜。」
「かわいいっていうな!カッコイイと言え!」
「うんうん、めっちゃかわええよ!」
…全然話聞いてねぇな、コイツ…。
にやけた面しやがって…。
腹が立ったので、何か仕返ししてやろうと思った。
何かないだろうか。
コイツがビックリするようなこと…。
アントーニョはグラスに残ったワインを飲み干して、ボトルから継ぎ足す。
その、唇はワインに濡れて光って、ドキりとした。
あ。
ケーキを残さず平らげて、おもむろにテーブルに載ったままの皿を少し避けていく。
それに気付いたアントーニョはまた首を傾げた。
「ロヴィ?」
その声を無視して、テーブルに足をかけて乗り上げる。
『ちょっ、コラ!テーブルに乗ったらあかんやん!行儀悪いで!』
などと言うアントーニョをこれまたスルーして、
手を伸ばしてアントーニョの服を掴んで引き寄せて、その唇にキスをした。
葡萄の香りとアルコール。
それから、アントーニョの太陽の匂いに酔いしれた。
最後にペロリと唇を舐めて、開放してやる。
固まったままのアントーニョは、アルコールのせいか、それとも別の意味でか。
頬がトマトのようになっていて、ちょっとコイツのいう『トマトみたいでかわいい』が
理解できたような気がした。
「なっ…ろ、え、!?」
「ばーか。ビックリしてやんの。」
してやったり。
悪戯が成功した子どもは、笑う。
ひょいとテーブルを降りると、今だにパニッくってるアントーニョを置いて、部屋を出た。
部屋の中から意味不明な叫び声が聞こえたが、無視だ。
暗くなった廊下を進んで行って、振り返る。
誰もいない。
…追いかけてはこない。
「ばーか。」
アントーニョのばーか。
いつまでも俺を子ども扱いしてんな。
気付けよ、ちくしょー。
お前なんか、キライだ。…けど、好き…だっばーか!!
* * * * *
出て行った可愛い子分の後姿を追うこともできずに、テーブルに伏してしまった。
あの子の柔らかい唇の感触が残った自分の唇を撫でると、身体がワインのせいだけじゃなく、
熱くなってしまって、困った。
(甘かった、な…。)
「ほんま…どないすんねん…。」
子どもだからって抑えてきた気持ちが溢れて、止まらなくなりそうだ。
あかんって。
やって、さっきのキスは特に意味がなかったんかもしらん。
…でもロヴィーノは嫌いなやつに、そんなあことせぇへんよな…。
…いやいやいや。でもあかんねん。
「あーもう!ロヴィーノの阿呆!襲ってまったらどないするねん!嫌やろ、そんなん…っ!」
出来るなら、今すぐ追いかけて、抱きしめて。
今度は自分からキスをして。
そして…―――――――。
「はぁ…。」
…それにしても。
「ロヴィーノ…あんなキス、どこで覚えてきたんやろ…やっぱフランシスかっ!?」
今度会ったら覚えとけよ。
と、フランシスの家の方向に向かって思いつくかぎりの罵声を発しておいた。
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