「どういうこと?」
「どういうこともなにも、あのオーナーが手出し出来へんような
安全なところで匿えっていうたん、フェリちゃんやん。俺の傍が最適やろ?」
へらりとアントーニョが笑うとフェリシアーノは顔を強張らせた。
確かに『カリエド』ならあのオーナーもマフィアも簡単には手出し出来ないだろう。
けれど、そこはロヴィーノにとって本当に安全なところだろうか。
「…貴方は兄ちゃんをどうするつもりなの?まさか……
オーナーと同じこと、しようとしてないよね?」
「まさか。俺はあの子を無理矢理どうこうしようって気はないで。
もちろん、ちゃんと手順は踏むし、俺んところに来るかどうかも、あの子次第や」
衣食住も全て俺が面倒を見るし、
歌姫の仕事を続けたいというなら、それ相応の舞台を用意する。
他にやりたいことがあるなら出来る限り答えるつもりだ。
ただ、それを傍で見守ることを許してほしい。
「…もしかして、兄ちゃんのこと好きなの…?」
「んー、まぁ好きっちゃ好きやけど…ファンやし」
「ファン…」
恋愛感情での好きというには軽く、けれど気になる存在。
興味があるというのかもしれない。
彼女…いいや、彼が毎日どのようなことを思い、感じ、
舞台の上の表情や仕草ではない、本当の彼を知りたい。
「興味……。アントーニョさんて意外と正直だね。
うん……じゃあ、兄ちゃんのことよろしくお願いします」
「ありがとう、フェリちゃん。ほな詳しいことはまた追々…」
今日はこれで退散しようとするとギルベルトが待ったをかけた。
「悪事を暴くなんて簡単に行くわけねーと思ってたけど…
アントーニョ、おまえがその気なら、俺いい考えがあるぞ」
「いい考え?」
「あぁ、お前んとこが所有してるあのブルーオーシャンに
オーナーをおびき寄せんだよ。船上なら陸で何やってても
知るには多少の時差があるだろ」
ギルベルトの作戦は、こうだ。
まずブルーオーシャンズ号での歌姫の公演を依頼し、
オーナーの自宅兼事務所が手薄になったところで強制捜査に入る。
その間、船上でたっぷりと贅沢に浸からせて感覚を鈍らせたところで
兄弟の養子縁組を解消させる書類に判を押させる。
マフィアとの繋がりが露呈させれば今まで貢いでいた貴族たちも離れるだろう。
借金を返せなくなればオペラハウスはおろか、自宅も差し押さえられる。
その後オペラハウスをアントーニョが買収し、畳むなり、存続させるなりは
アントーニョにまかせる、と。
「へぇ、流石ギルベルト。えぇ考えやん」
「ケセセセセッ、だろ?もっと褒めたっていいんだぜ!」
「うん、そんな感じで進めていこか。えけかな、フェリちゃん」
「うん、俺は兄ちゃん助けてくれるならそれでいいよ」
改めてよろしく、と互いに握手を交わして
この作戦でそれぞれ動くことになった。
その時はそれで別れ、誰にも気付かれぬように
三人は時折集まって詳しく話を詰めていった。
最初は渋っていたフランシスも話を進めていくうちに
協力してくれることになり、他にも何人かの部下が
この作戦に1枚噛んでくれることになった。
というのもブルーオーシャンズの客足は徐々に減っていきつつあったのだが、
歌姫の公演予定があるという噂を聞きつけたファンたちが
是非予約を、と殺到したのだ。
そこで作戦通りブルーオーシャンズ号で歌姫の公演を依頼すると
何も知らずにオーナーは二つ返事でOKを出し、正式に契約を交わした。
そして計画から一年後、漸くギルベルトが提案した
作戦は実行に移されたのだった。
「――――――俺のツレになんか用?」
妙に馴れ馴れしい男に絡まれて困っていた赤の歌姫を
デッキで見つけた俺はその腰を引き寄せ、男の手を振り払った。
自分を見開いた瞳で見上げる歌姫にに気付いてペリドットの瞳を優しく細めた。
綺麗なオリーブグリーンだった。
恋愛感情などないつもりだったのに、初めて触れた瞬間
どうしようもなく俺は赤の歌姫…――――――いいや、
ロヴィーノにどうしようもなく心惹かれてしまったんだ。
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