おまけ

控え室から逃げ出したロヴィーノをアントーニョが捕まえたのを見て
ほっと胸を撫で下ろし、やれやれこれでどうにか纏まるだろう。
後はあの二人次第だ、勝手にやればいい。
肩を竦ませたところで背後から声がかけられた。

「やはり、貴方でしたか――――――アーサーさん」

呆れたような咎めるような声で本田菊は言った。
一方アーサーと呼ばれた男は予期せぬ人物の登場に驚きを隠せなかった。

「きっ菊…!?なんでここに…っ?!」
「私は今、フェリシアーノ君のところでいろいろ勉強させてもらっているので。
それより、アーサーさん。どういうことですか?
まさかロヴィーノ君に魔法をかけたのは貴方でしょう?
一体何故このようなことを…!事と次第によっては私も容赦しません。
法王様にご報告させていただきますよ?」
「まてまてまて!それは困る!!」

法王の孫好きっぷりは有名だ。
その孫であるロヴィーノに危害を加えたとなれば
極刑は免れず、寧ろ命があるかどうかもあやしい。

「では私の質問に答えていただけますね?
何故ロヴィーノ君の記憶を消す必要があったのか」
「…………」
「アーサーさん」

困ったように頬をかくアーサーを促すように名を呼ぶ本田。
それでも躊躇するアーサーに再度問いかけようとした
本田が口を開けかけた、その時。

「まぁ言い難いよなぁ?あれは殆ど八つ当たりみたいなもんだし?」
「フランシス!?」
「フランシスさん…?」

本田に軽く片手を上げたフランシスは、によによとアーサーを見遣った。
それに対してアーサーはバツの悪い顔をして、チッと舌打ちをした。

「フランシスさんはご存知で?」
「まぁねー。ロヴィーノに何か恨みがあった、とかじゃなくて
あるとしたら…――――――アントーニョの方だろ?」
「アントーニョさん?…どういうことでしょう?」
「ばっばか!この髭!!」

慌ててアーサーはフランシスの口を封じようとするが、
フランシスはにやにやと笑いながら本田に話した。

「学生時代、コイツずっと生徒会長なんてやっててさ、
成績いいのだけが自慢だったんだけど、
剣術でアントーニョにあっさり負けたことがあって、
それから目の敵にしてんだよ、コイツ」
「だぁっ!黙れっつってんだろーがぁ!!」
「陰気臭くて皮肉しか言えないアーサーと違って
アントーニョは明るくて人当たりいいから男女共にそこそこ人気あって
…あ、お兄さんの方が人気者なんだけどね☆
加えてあの身分だろ?社交界でもアイツの嫁ポジ争いとか水面下で
やり合う女子たちっていうのも羨ましくてしょうがなかったんだよなー?」

あれこれ何かと理由をつけて突っかかっていくアーサーだが、
アントーニョは大して相手にもしていなかった。
そんなアントーニョに何とか吠え面かかせたいアーサーはいろいろ画策し始める。
そこで飛び込んできたのがあのアントーニョが法王の孫に求婚したという話だ。
何に対してもあまり執着も特別感心も寄せないアントーニョが、心底入れ込んでいる。
そして、その相手もアントーニョのことを慕っている。
…これだと思ったんだろうな。

相手にこっぴどく振られてざまぁ!!と高笑いしたいアーサーは
法王の後継者争いに目をつけた。
周りの人間を操り、ロヴィーノが孤立したように見せかける。
酷く傷つくロヴィーノに、追い討ちをかけるように
アントーニョの「結婚して」は気に入った人間なら誰にでもいう。
現に最初はフェリシアーノに同じことを言った、とそう言って
元々コンプレックスだったフェリシアーノのことを引き合いに出した。

自分だけじゃない。
アントーニョは誰にでもそうなのだ。
相手は誰でもいいんだ。

そう思い込んでしまったロヴィーノは絶望し、嘆き悲しんだ。
そんなロヴィーノの前に現れ、アーサーはひとつの魔法薬を手渡した。
小瓶に入った液体には『全てを忘れる』魔法が掛かっていた。
ロヴィーノはそれを飲んだ。

「…一口、口にさえすれば良かったんだよ。なのに、アイツ殆ど飲み干しやがって」

まだ子供だし、それくらいなら問題なかった。
数年もせず切れるはずの魔法だ。
だが、強力な魔法薬を大量摂取にロヴィーノの身体には負担が大きすぎた。
ロヴィーノが高熱に魘されたのはそのせいだ。

「……想像以上にくだらない理由すぎて呆れました。
こんなの、ロヴィーノ君にしてみたら私怨に巻き込まれただけじゃないですか」

そんな理由で一人苦しめられて、ロヴィーノのことを思うと本田は胸が痛んだ。
このことをあの孫命のあの人が知ったらどうなるのか。
そして、アントーニョも…――――――。

「まぁ、それで全部忘れて面会もさせてもらえないアントーニョ見て
漸く腹を収めたんだよな」
「そんな酷い人だとは思いませんでした。…見損ないました」
「うっだっだから!悪いと思ってこうやってあの二人をくっつけようと
ちょっとだけ協力を、だな…!」
「残念ですが、貴方の協力などなくとも、あのお二方はきっと
再び通じ合えたかと思います」

どういう意味か、と問うアーサーの声には答えず、
本田はこのことは自分たちの胸のうちだけにしまって、
黙っておくが、二度とロヴィーノを利用するようなことをするなと静かに窘めた。

「もう戻ります。ロヴィーノ君の花嫁姿見ておきたいですから。
フランシスさんも呼ばれているのでしょう?一緒に戻りませんか?」
「あぁ、そうだな。じゃあな。喧嘩するなら他は巻き込まない方が身の為だぞ☆」
「お前に言われたくねーよっばかぁ!!」
「あ、アーサーさん、もうひとつだけいいですか?薬の効果はいつまでですか?」
「…はっきりいつまでっていうのは分からない。
だが……恐らくあと2、30年だろうと思う」
「2、30年…そうですか」

本田は今度こそ踵を返した。
そんなに月日が経ってしまえばそれこそ『今更』になってしまうだろう。
まぁ苦しんだ記憶も全部戻ってしまうのなら、
ロヴィーノためにも時間は必要かもしれない。
そして、忘れたままでいるのも…。

「ねぇ、菊。さっきのことだけど…アイツが協力せずとも通じ合えるってやつ。
どういう意味?まさか運命の赤い糸で結ばれているとかそんな話じゃないんだろ?」
「あぁ、…あれですか。あれは魔法で全て忘れてしまったロヴィーノ君ですが、
ひとつ、アーサーさんは知らないんですね」

くすりと面白そうに笑った本田は続けた。

「覚えていたんですよ、ロヴィーノ君は。
少しですが、アントーニョさんと過ごした日々も、彼に対する想いも。
毎日のように夢で、繰り返し再生していたんです。…忘れないように」
「え…ええ?じゃあアイツの魔法は完璧じゃなかったってことか?」
「いいえ。彼の魔法は完璧ですよ。ですが、それよりも
ロヴィーノ君は『忘れたい』と願ったそれをやはり無意識にでしょう
全てを失くしたくなくて閉じかけた扉の外へとそれを逃がした。
完璧なはずの魔法に抗ったんです、ロヴィーノ君は凄いですね」

そこにアントーニョに対する純粋な愛情を感じて
本田はとても嬉しくなった。

「なるほどね…こりゃ凄いわ」
「ね?何もせずとも、お二人はきっと通じ合える。そう思えるでしょう?」
「だな…」

ふと礼拝堂に続く回廊を花嫁姿のロヴィーノをアントーニョが抱えて走っていく姿が
視線の先を通り過ぎて、本田とフランシスは一瞬おいて笑った。

「幸せそうなので、とりあえずはめでたし、めでたしということで」
「今後なんかあってもまぁどうにかなるだろうさ」

揃って礼拝堂に向かいながら二人は今後も温かく見守ろうとそう思うのだった。





END




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眉毛さん、今回完璧に悪役ポジにしてすみませんでした。
あと、仏兄は何で知ってたん?て話ですが
そこはお兄さんだから☆ってことでひとつ。

そして普は留守番組です。
じいちゃん、イタちゃんが留守にする、
独はその護衛を任されてますので、必然的に。
不憫な扱いしてごめんねー!w

2014/12/21 up