例えばの話をしよう。少女漫画などでよくある、女の子がある男に恋をしていて、
でもその人には好きな人がいるだとか、恋人がいるだとか、様々な理由で
“だから、これは『叶わない恋』だ”とされている。
しかし、だ。俺に言わせれば、まだこんなのは『叶わない』などとは思わない。
好きな人がいようが、恋人がいようが、それがなんだと言うのだ。
それでも、努力すればそれは“もしかしたら”になる可能性がゼロじゃないだろう。
それが難しいとかいうなよ。恋をするなら、相手に好かれるように、頑張るのは普通なんだからさ。
それもしないで『叶わない』とか言ってるやつは、ただの怠け者だ。
まぁつまりな、俺が言いたいのは、そういう可能性があるのに『叶わない』って
決め付けるんじゃねーよ、ってこと。
本当に叶わない恋っていうのはな。
好きなヤツには友達とか、ただの幼馴染としてしか見てもらえなくて、
俺がどんなに努力しようが頑張ろうが、全部空気読まないKYでぶち壊され、更に追い討ちをかけるように
そいつがな……異性じゃない場合、だ。
更に言うとそいつはまったく邪気も何もなく、こっちの気持ちはお構いなしで(気付いてないからだけど)
スキンシップ過多で、ウザいくらい構ってきて、こっちが内心すげー焦ってたりするのに
何でもないことみたいに触れてこられるし。
普通の友達よりも特別扱いなのは分かっているけど、それはただ単に幼馴染の弟分だからで、
欠片も疾しい気持ちがないので、変に慌てたり勘違いしては、良く馬鹿をみた。
結論から言って、そいつは俺のことは何とも思っていない。
そう考えるのが妥当だろう。
そして、これからもきっとそれは変わらないのだろう。
どうだ、皆まだ自分の方がマシ、って気になっただろう。
ちくしょう、なんだよその目は!哀れむんじゃねー!
俺だって…俺だって…ちぎいぃぃぃぃぃ!!
「…――――――――ノ。ロヴィーノ…。」
「…ん?」
「ロヴィーノ!…もー、さっきから呼んでるのに返事してぇや。寂しいやん!」
無視せんといてー!俺のこと無視せんといてー!
…と、喚く(ウザい)隣を歩く男の名は、アントーニョ。
近所に住んでて、昔から良くつるんでいる…幼馴染ってやつだ。
…そう、つまり。これが俺の片思いの相手である。
よりにもよって、なんでこんなやつに……思うこと数年。
それでもやっぱり、コイツじゃないとだめだな。って思うから、もう俺は末期だ。
笑いたければ、笑えこのやろー。
「朝からうるせぇんだよ、お前は。ちったぁ黙れカッツォ。」
「あ、やっとこっち見てくれた〜。朝から深刻そうな顔してるから、何かあったんかと心配になるやん。」
すいっと手が伸びてきて、手のひらを俺の額に当てた。
「んー、熱はないよなぁ。なんか悩みでもあるん?何かあったらいつでも相談してや!
俺、親分やし!力になるで!」
にこっとまったく邪気のない眩しい笑顔を向けられて、頬が赤くなると同時に胸が痛んだ。
人の気も知らないで、無責任なこと言いやがって…。
『実はお前が好きなんだ、恋愛感情で』とか言ったら、流石に能天気なコイツでも
引くだろうことは容易に想像が出来る。
それで、ただの幼馴染の存在でさえいられなくなるくらいなら、一生黙っているしかない。
いつか、俺にコイツよりも好きな人が出来れば、それが一番いい。
けど…いつかって…いつだよ。
ずっとこんな想いを抱えているのは、正直とても辛い。
誰にも言えないし、もちろん、本人に悟られるのは論外で。
…本気で叶わない恋っていうのは、まぁつまり、こういうことだろ。
「ロヴィー、なぁなぁロヴィーノ〜。」
「…今度は何だよ、鬱陶しい。」
「今、前歩いてる二人組の女子のスカートが風で捲れた。」
「なっ、おま…!そういうことは早く言えよ…!」
何一人だけ良い目を見てやがる!と、小声に潜めてゴスゴスとアントーニョの脇に拳を入れる。
そして、コホンと一つ咳払い。
「で…?」
「右の子がピンクで左の子が青の花柄。」
「ふーん…俺は左がいい。」
「えー、ロマって清楚で大人しそうな子好きやなぁ。」
「…まぁ可愛い女の子は皆好きだけどな。」
俺としては、あんまり強気な子よりは、大人しいタイプがいい。
可愛いし、守ってあげたくなるような。…ヘタレが何言ってんだ、とか笑うなよ。
「ほな、ロヴィーの今日のパンツはどんななん?」
「あー、今日は黒の……って、何言わせてんだ、ハゲ!」
「黒とかセクシーやんなぁ。ちなみに、俺はトマト柄やで!」
「聞いてねーよ!」
アントーニョをシメてやろうと頭突きの姿勢を取った…が。
その俺を背後から誰かが抱きしめた。
「なーに朝から楽しそうな会話してんの〜?お兄さんも、ま・ぜ・て…。」
「ひぎゃあああっ!は、は、離せ〜〜〜!」
その声は、アントーニョの悪友であるフランシスだ。
だが何故か、俺にも良く絡んでくる。ブザけやがって…。
って、み、耳に息吹きかけやがったー!気持ち悪…っ!
暴れてスペインに助けを求めようとした、が。
「こーら、フランシス〜。ロヴィ苛めたアカンって何べんゆうたら解るんかなぁ…?」
助けを求めるよりも早く、アントーニョはフランシスを締め上げていた。
た、助かったぞこのやろー。
ほっと胸を撫で下ろしていると、背後からウザい笑い声が聞こえてきた。
「ケセセセっ!格好いい俺様の登場だぜ!あー、今日の俺様も格好よすぎるぜー!」
うわ…うぜーのが増えた…。げんなりしていると、目が合った。
な、なんだよ。少し後ずさると、ギルベルトがケセセセと
ムカツク笑い声を上げた。
「フェリシアーノちゃんのお兄様、いくら俺様が格好いいからって、惚れるなよ!」
「はぁ?…寝言は寝て言えよ。」
「せやで、ギル…いくらなんでもそれはないわぁ…。」
「ロヴィーノ、お兄さんならいくらでも見詰めていいよ?なにせ、俺ってば世界一美しいから!
身体の隅々までが芸術作品!なんなら、脱ぐけど?」
「脱ぐなよ!」
「そうだ、そうだ!どう見ても俺様の方が格好良いだろーが!」
こっちからしてみれば、心底どうでもいい言い合いに突っ込む気も起きずに聞き流すことにした。
あんなやつらに構ってる時間が勿体ねぇ。
「なぁなぁ、ロヴィーノ。」
「あん?今度は何だよ…。」
「俺やったらいくらでも見詰めてくれてえぇんやで!」
「み、見ねーよっちくしょー!」
スペリューン☆とウインクするアントーニョの腹に拳を一発ぶち込んでおく。
くだらない話に乗っかってんじゃねーよ。畜生。
(…言われなくても、ずっと見てるっつーの!)
気づけ、馬鹿!と、心の中で叫んだが、はたと気付く。
…いや、気付くな。
気付かれたら、傍にいられない。
それだけは、絶対に嫌なんだ。
だからさ、告白しようとか、付き合いたいとか、そういうことは考えていない。
(ありえないから)だから、このままでもいい。
このまま、アントーニョの傍にいられたら、この胸の痛みも全部耐えられる。
その時は、そう思っていた。
*
夏休みも間近に迫ったある日の放課後のことだ。
その日もいつもどおり炎天下の中、アントーニョがサッカー部の練習に励むのを
風通しのよい日陰で見ていた。
そして部活が終わると、アントーニョといつものように一緒に帰る。
『待たせてごめんな〜』と笑うアントーニョに、
『別にお前なんか待ってない!』って返すのもいつものことで。
そこに特別なことは何もなかったのだ。
「最近気合入ってんな、サッカー部。」
「そりゃもうすぐ大会決勝戦やし。気合も入るっちゅーか…今回は負けられへんからなぁ。」
「…ふぅん?」
アントーニョの横顔は、どこか硬くて何か重大な決意したような…。
珍しくそれ以降、黙り込んでしまったことも、微妙に『今回は』が引っかかったが、
まぁどうでもいいかと流した。
アントーニョはサッカーが好きだし、それくらい真剣なんだろう。
それにしても、腹減ったな…。
「あ、そうだ。お前、今日…――――――――。」
「――――――――あんな、ロヴィーノ。」
近道をするために公園の中を歩いていたら、突然アントーニョが俺の手を引いた。
それに少し驚いて、目を見張る。
夕暮れ時、公園のブランコの前で俺たちは立ち止まった。
アントーニョのペリドットの瞳が思いの外真っ直ぐにこちらを射抜いて、思わず胸がドキリと高鳴った。
なんだ??
「なんだよ、オイ。つか、手離せ!」
「…あ、あんな…、」
「あ?なんだよちくしょー!」
照れ隠しで思わず語気が荒くなる。
アントーニョの真っ直ぐな瞳を直視できずに視線を逸らした。
なんだよ、これ。一体どうしたんだよ。
「今度の日曜、試合やねん。」
「あ、あぁ…それが何。応援に来いってか?」
「それもあるけど…。」
「あー、じゃあフェリシアーノも連れて見に行ってやるから、手ぇ離せよ…。」
「うん、そんでなロヴィー…。」
「だ、だから…なん、だよ…。」
ぎゅっと強く手を掴まれて、少し痛い。
でも、それ以上に心臓が痛いくらいバクバクしていた。
(つーか、なんだこの状況…まるで)
何か重大な告白をされているようで、そんなのありえないのに、
期待してしまう俺がいた。
(まさか…って、思ってしまう)
「――――――――勝ったら、ロヴィーノに言いたいこと、あんねん。」
「それ…って…い、今じゃ駄目なのかよ…。」
「うん。せやから、絶対来てな。」
(だから、何なんだよ…)
今言えないことなのかよ。勝ったらって何だよ…。
じゃあ負けたら言えないことなのかよ…。
意味が分からん。
「ほな、そういうことで!あ〜お腹空いたわぁ。晩御飯何にしよー。」
「あ、おい!」
あれほど強く掴んでいた手を、ぱっと呆気なく離され、さっきまでの真剣さは
微塵も感じさせない緩い顔で笑いながら歩き出される。
(…なんなんだよ…)
少し掴まれた感覚の残った、空っぽの手に寂しさを感じた。
「せや、ロヴィーはさっき何言いかけたん?」
「…フェリシアーノが、夕飯よかったら一緒に食べるかってさっきメールがきた。
……けど、いらねーって返しておいてやる。」
「えええぇぇっ!ちょっ、まっ…食べる!食べる!食べたいです!わーっロヴィーノ待ってや〜!」
(人の気も知らないで、思わせぶりな態度とるコイツが悪い。)
勝ったら言いたいことってのは、多分何か奢れとかそういうのだろう。
アントーニョのくせに、生意気な。お前なんか負けちまえ、バカヤロウ。
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