世界会議の休憩時間に、持参した内職をしながら
窓の外をにやけた顔で見ていたスペインに、フランスは声をかけた。
「よぉ、スペイン。何してんのー?」
「んー?あぁ、フランスかー。」
造花を作る手の動きはそのままに、少しだけこちらに顔を向けたスペインは、
また窓の外を見ていた。
「お前、会議にまで内職持ち込むなよー。」
「明日納期やねん。堪忍したってー。」
「…で?何見てんの?」
「んー?あれあれ。」
スペインの視線の先を追うと、中庭でイタリア兄弟がベンチに座って
コーヒーを飲みながら談笑していた。
くるんが風に揺れてふよふよしていて、大変和む光景であった。
なるほど、とフランスは思う。
スペインのイタリア兄弟好きは変わらない。
「好きだねー、本当。」
「やって、かわえぇやんなぁ、かわえぇやんなぁ…楽園みたいやんなぁ!」
「うんうん、二人とも俺の領地になればよかったのにね〜。」
「その冗談、えぇ加減にやめた方がえぇで。」
思いの外低い声が返ってきて、苦笑する。
ふと再び窓の外を見ていると、イタリアが立ち上がって誰かに手を振っていた。
その視線の先にはドイツと日本がいた。
二人に向かって駆け出したイタリアが、二人にハグをしていると、
ロマーノが眉をつり上げて何か怒っていた。
ドイツに向かって指差し、何かを言いながら突っかかっていく。
「ほんま、ロマのドイツ嫌いは変わらへんなー。」
「…っていうか、あの子は男が全般嫌いなんだろ。
俺なんか見ただけで逃げようとするしぃ…。お兄さんは悲しい!」
「や、お前の場合は自業自得やろ。」
呆れたような声が返ってきたが、気にしない。
しかし、ロマーノの男嫌いも、この男だけはどうやら別格みたいだが。
…ロマーノも、厄介な男を好きになったなぁ。
…とは、口には出さないけどね。
窓の外では相変わらずロマーノはドイツに対してピリピリ怒っている。
それをイタリアが諌めようとするが、逆に怒鳴られていた。
「ロマもあんなカッカせんと、仲良ぉしたらえぇのになー。」
などと笑うスペインだったが。
ドイツに突っかかって行こうとしたロマーノが、
足元の段差に気がつかなかったのか、躓いて転びそうになったのを
体格に似合わず機敏な動作で持って、ドイツがそれを支えた。
ムキムキに顔を埋める羽目になったロマーノは、カッと耳まで赤くして
何かを叫んだ後、どこかに走って行ってしまった。
「あは、流石ロマーノ。可愛い反応しちゃってまぁ…ねぇ、スペイ…」
いつもの陽気さはどこへやら。
厳しい表情で睨みつけるその瞳は、『太陽の沈まぬ国』と評されていた頃の
スペインに戻ってしまったかのように、冷たい。
「…嫉妬してんの?」
「…………そんなんとちゃうもん。」
「…じゃあ、何だっていうのさ。」
スペインは、フイっと視線を外して手元の造花を作ることに専念する。
それを見て、ため息を吐いた。
好きなら、好きって言えばいいじゃないの。
いつもみたいに笑顔でそう言ってあげろよ。
早くあのコの気持ちに応えてやれよ。
分かってるくせに、この男は。
俺が口を開いたそのとき。
バタンと扉が開いた。
「スペインこのやろー!!お前が早く助けに来ないから
ムキムキにダイブしちまったじゃねーかっ!」
駆け込んできたロマーノは、スペインを見つけるなり、
半泣きで八つ当たりを始めた。
「ちくしょーちくしょーちくしょー!全部お前のせいだああああっ!!」
「助けてもらったんやろ〜?ちゃんとお礼言うてきたん?」
「そんなもん、俺が頼んだわけじゃねーのに、何で俺が…!
ふ…うえぇぇっムキムキしてたぞこのやろー!」
「はいはい、落ち着きー。元気の出るおまじないしたるから、な?」
ふそそそそそそ〜っ。
意味不明な呪文とともに、何かを振りまいたスペインは
ぐすぐすと泣くロマーノを抱き寄せて、よしよしと頭を撫でた。
まるで昔と変わらない光景だ。
ドイツのムキムキは嫌なくせに、スペインはいいのか、ロマーノ。
スペインの胸に顔を埋めて泣くロマーノに、苦笑する。
本当に、変わらない。
あの子が自ら近づいていき、そして身を預ける。
どれだけ心を許しているのか、良く分かる。
言葉にせずとも、傍目から見てもロマーノの気持ちは分かり易過ぎるくらいなのに。
「ロマーノ、泣くならお兄さんの胸で泣けばいいのにー。」
「ちぎゃあああっ何でフランスがここに…!」
「いや、最初から居たし…。」
「ロマーノ、ロマーノ。ほら、俺が居るから大丈夫やで。」
な?と輝くような笑顔を向けたスペインに、ロマーノも漸く落ち着いて鼻を啜った。
「そろそろ会議始まるな、行こか。」
「…ん。」
連れたって部屋を出て行く二人の後ろ姿を見ながら、思う。
何百年も前から、変わらぬその関係は、果たして。
変わるときがくるのかどうか。
(ロマーノは、言わずもがなだけど…スペインがなぁ…)
(好きじゃないはず、ないんだけどなぁ…)
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