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視線の先には、ロマーノが女の子と楽しそうに談笑しながら
酒の入った杯を傾けていた。
会議が終わった後、イタリアに誘われて皆に飲みに来ていたのだ。
着いて早々にロマーノは、美人を捕まえて一緒に飲み始めてしまったのだ。
まったく、流石はイタリアというべきか…。
ちくりと痛む胸には気付かないフリで、俺も皆と飲み始めた。


視界の端で、ロマーノは女の子に何かを囁いている。
相手の子も満更でもなさそうで、笑顔を見せている。

(まぁロマに言い寄られて、悪い気せぇへんやろなぁ。格好えぇし。)

同じようなスーツを着ていても、洒落て見えるし。
容姿も整っていて…ちょっとした仕草にドキリとさせられたり。
加えて、女の子に対してのみ向けられる、キラキラの笑顔。

(…俺にはあんまそういう顔見せてくれへんのに。)


「気になるの?」
「…別に。いつものことやし…。」

によによと笑うフランスに視線も向けずに、グラスを傾ける。
なんやろ。今日はあんま美味くないなぁ。

「そんな嫉妬するくらいなら、言っちゃえばいいのに。好きだってさ。」
「だから、俺は別にそんなん…」
「じゃあ、俺が貰ってもいい?」

フランスの言葉に、条件反射で即答する。

「アカン!!何べん言うたら分かるねん、ほんま…」
「別にいいじゃないか、『別に』どうでもいいんだったらさ。」
「どうでもいいとか、言うてへんやろ!」

どうでもよかったら、こんなに気にならない。
胸が痛むこともない。
けれど。

「…言っとくけど、あの子はお前が好きだよ。何百年も前からね。」
「知っとるよ。…好きやって、言われたし。」
「は?嘘、何それ。聞いてないんだけど!」
「何で一々お前に言わないかんの。…イタリア統一の時に、
ロマが俺ん家から出てく時に。」


――――トランク一つだけ持ったロマーノと、玄関先で別れた時のことだ。

『独立しても、俺はお前の親分やから、いつでも来ぃや。』
胸のうちに抱えた気持ちを押し殺して、笑ってそう言った。
それに、微笑したロマーノが頷いて、少しの沈黙。
そして、ロマーノは言った。
『俺、お前に言いたいこと、あるんだけど。』
『ん…?なに…』
『俺、お前のこと、……好き、だった。』
『ロマーノ……ありがとうな、親分も…』
くいと腕を引かれて、唇に軽く触れるだけのキス。
驚いて目を見開いた。
『親分だから、とかそういうんじゃなくて、こういう意味だ!』
『え……っと、でも俺、ロマのことそういうふうには、』
『知ってる。』
『ロマ、』
『でも、言いたかっただけだ。悪かったな。』
泣くことも、笑うこともなく、ロマーノはただ無表情でそう言うと、
踵を返して、トランクを持って俺に背を向けた…――――。




「…知ってるんなら、なんで曖昧な態度とるの。
その気がないなら、すっぱりフッてやれよ。じゃないと、あの子…
いつまでたっても、お前のこと忘れられないじゃない。」

俺としては、早くお前のこと忘れて欲しいけどね。
そう付け加えるフランスの、テーブルの下の足を踏んでおく。

「確かに、俺かて…ロマのことは好きや。」

そこは認めよう。
昔も今も、大事で大切で愛しいのはロマーノだけだ。
けれど。

「おい、スペインこのやろー!フラれちゃったぞ畜生!慰めろ。」

そう言って、ロマーノはどっかりと隣に座り込んできた。
赤らんだ頬に、ロマーノが酔っていることが分かった。

「ロマ、どんだけ飲んだん…。」
「そんなに飲んでねーよ。なんか新しいやつ頼んでこいよ。」
「もうやめとき、水でも飲んどり。」
「嫌だ、飲む。」

据わった目で睨まれても、駄目やで。
そう言えば、ロマーノは俺のグラスを奪って、中身を全て飲み干してしまう。
ごくごくと動く喉に、何故か目を離せない。
つーか、それ…俺の…。
間接キスやん…。とか、絶対思ってへんのやろな…。


「…これで、お前も新しいの頼まないとな。」

にやっと笑ったロマーノの唇が濡れて艶っぽい。
あぁ、もう人の気も知らんと、そんな顔で笑うなや。

「もー、ロマーノ…。はぁ、しゃーないな、何がえぇの?」

そんなに煽らないで欲しい。
我慢してる、こっちの身にもなって欲しい。
…とは言えないが。


「…―――――シェリー酒。」


呟いたロマーノは、一瞬切なく眉を寄せると、
直ぐに『何でもいい』と言い直し、そっぽを向いた。

「…ほな、サングリアでも頼んでくるわ。」

隣のフランスが眉を寄せたが、気付かないフリをした。







案の定、暫くして酔い潰れたロマーノは、俺の肩に寄りかかって眠ってしまった。
寝顔は少し幼くて、可愛らしい。
さらりとした髪を撫でていると、今まで黙っていた隣のフランスが口を開いた。

「さっきのは、酷いんじゃない?」
「…何がー?」
「意味分からない訳じゃないくせにさぁ…酷い男だね。」
「何のことか、わからへんなぁ。」
「分からないのはこっちだよ。…好きならなんで応えてあげないの。」

据え膳食わないなんて、男じゃない!
俺がロマーノお持ち帰りしたいよ!
というフランスの足を再度踏んづけておく。

「…やって、ロマが悪いんやで。」
「はぁ?」

訝しむフランスの視線を無視して、ロマーノの髪を梳くように撫でる。
安心しきった顔。
ロマーノは、知らない。
俺がロマーノに抱いている感情は、お前の俺を想う気持ちよりも
もっとどす黒くて汚い感情なんだ、ということを。

「イタリアとして独立する時も、俺はそれがロマの望みなんやったらって思て
力ずくで引き止めたりせぇへんかった。
ほんまは俺かてずっと一緒に居りたかったけど、我慢してん。
せやのに、…出て行く時になって『好き“だった”』とか言うし。
好きなんやったら、なんでもっと早く言わんの。
なんで、一緒に居れなくなるのに、そんなこと言うねん。
…過去形にして、諦めた顔して、自分の気持ちにケリ付けたかった、
みたいなこと、言われたらなんや腹立つやん。」

言いながら、髪を撫でていた手で、ロマーノの唇をなぞる。

「…それ、実はずっと前から好きって自覚あったように聞こえるんだけど。」
「………まぁ、そうやね。」
「それなのに、『そんなふうに見てない』とか、よく言えたもんだね…。」


お兄さん、呆れちゃう。と、苦い顔をされたが、気にしない。
唇をなぞった指に、キスをする。

「…ケリなんか、つけさせへん。ずっと忘れられへんかったらえぇ。」

離れても、それでもこうして俺のところにくるように。
優しくして、たくさん甘やかして、たくさん可愛がってあげよう。
昔と変わらぬ態度で。






「そんで、もっと苦しんだらえぇ。もっと悩んだらえぇ。」






「そんで、泣いて縋って、俺のこと欲しがりや。」







だから、それまでは絶対言ってはあげない。











「好きやなんて、絶対言うてやらへん。」

















「……このドS。」
「褒めてもなんもでぇへんよ。」
「……褒めてねーよ。あーぁ、ロマーノもとんだ悪い男に好かれたもんだ。」

呆れたように肩を竦めるフランスに、ゆるい笑みを返しておく。


何とでも言えばいい。
この子は俺のや。
絶対誰にも渡したらへん。
なぁ、ロマ。





お前かて、俺やないと嫌やろ?







そんな会話をしていると、イタリアが近づいてきた。

「あれ、兄ちゃん寝ちゃったの??」
「あ、イタちゃん〜。そうみたいや。」
「おーい、兄ちゃん〜〜。」

声をかけながら、イタリアは笑った。

「兄ちゃん、寝てると可愛いよね〜。いっつも眉間に皺寄せてないで、
笑っていたらもっともっと可愛いのにさぁ…ねぇ、ドイツ?」
「あ、あぁ……そう、だな。」

ドイツの目が、心なしか優しくなったような気がした。
溜まらずカタンと立ち上がると、ロマーノを抱きかかえた。

「ロマ寝てもうたみたいやし、部屋に連れて行っとくわ。」
「あ、うん。宜しくね、スペイン兄ちゃん。」

そういうイタリアに笑みを返して頷いておく。
去り際に、フランスが言った。

「…スペイン、一つ忠告しておくけど。」
「…なん?」
「意地悪してたら、トンビに攫われちゃうかもよ。」
「……そんなもん、居っても撃ち落したるから大丈夫やで。」


笑って受け流すと、ロマーノを抱え直して店を後にした。







*






ロマーノを抱えて出て行ったスペインに、フランスは肩を竦めた。



…ロマーノの方が依存してるように見えたが、
スペインの方がよっぽど執着してるくせに、意地が悪い。

いっそ自分がトンビになろうかと思ったが、あの分じゃ
撃ち落すくらいじゃすまないんじゃないのか?
お兄さん、まだ死にたくないし。

(ロマーノに頑張って耐えてもらうしかないか…)


マジでとんでもないのに好かれたよな、と苦笑するしかなかった。



・・END・・





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後書き ぴくしぶに上げていたものをちょっと加筆修正しました。 ロマは一回親分のこと諦めようとしましたが、 吹っ切れられなくて、「まぁ想うだけなら自由だろ」と。 絶賛片思い中。(だと思っている) そんなロマを一回フったドS親分と、仏兄ちゃんの会話。 実はロマのことはずっと前から好きだけど、 自分から告白する気がない親分。 なんという悪い男。(笑) というわけで。 とっくに報われているのに、気がつかないロマと。 自分からは絶対好きと言いたくない意地っ張り親分です。 いつかちゃんとくっつく話も書きたいです。 ここまで読んでくださって有難うございました。 ちょこっとおまけ(?)もご用意しました。 よかったらどうぞです。 おまけ 2010/10/3 初出(pixiv) 2010/11/28 加筆修正up