食事を終えてレストランから出ると、アントーニョは部屋まで送ると言って手を差し出した。
いいと突っぱねるけど、まだ一緒にいたいという気持ちを知ってか知らずか
来た時同様に強引に腰に手を回して歩き出した。
素直じゃない俺は不本意ながらという体を崩せなかった。
アントーニョはそんな態度をとっても大して気にしてないようだったが。
ロヴィーノに宛がわれた部屋は海側のツインルームだが、
バルコニーはついていない普通の客室だ。
そして当たり前だがフェリシアーノと同室になっている。
他の団員たちも同じような部屋を宛がわれているが
オーナーだけは別階のミニスイートを取っていた。
エレベーターを使ってロヴィーノの部屋のある階へつくとエレベーターホールには
大分ご立腹な様子のオーナーが待ち構えていた。
「ロヴィーノ!お前またフラフラとどこをほっつき歩いていた!!
フェリシアーノはとっくに部屋に戻っているというのに!」
「す、すみません」
鋭い声に身を竦ませ頭を下げると、強く腕を引かれた。
「全くお前は目を離すと直ぐにこうだ!来い!お前には“仕置き”が必要なようだ」
“仕置き”の言葉に口の端を上げ、薄く笑うオーナーにさっと血の気が引いた。
「っ!それだけは!いやっやだ!離し…っ」
無理矢理腕を引っ張られて何とか踏み止まろうと藻掻くが、
更に力任せに強引に引かれ、痛みに顔を歪めた。
そんな只ならぬ様子にアントーニョはロヴィーノの腕を強引に引く
オーナーの手を引き剥がした。
「何だ、お前は!?」
「嫌がるロヴィを強引に連れ出したんは俺や。すんません。
せやからロヴィを叱るんはやめたってや」
オーナーとロヴィーノの間に入り、背後にロヴィーノを庇うように立ったアントーニョは
オーナーに頭を下げた。
「オーナーさんの許可が必要なら今後はそうするけど、
仮にも主役の歌姫に対してちょっと乱暴すぎやないん?」
今は人気がないとしても誰が通るかも分からないようなこんな場所で
いくらオーナーでも話題の歌姫に横暴な態度をとっていたとなれば
ファンが黙ってはいないだろう。
「うるさい!お前のような若造に言われる筋合いは……っ!?まさか、貴方は…!」
アントーニョの顔をまじまじと見たオーナーはさっと血の気を引かせて
失礼しましたと慌ててペコペコと頭を下げた。
「知らなかったとはいえとんだご無礼を…!どうかお許しください!
いえいえっ許可など滅相もございません!
どうぞ無作法な歌姫ですがお好きになさってください!」
失礼しましたと言ってそそくさと立ち去って行ったオーナーをぽかんと呆けたまま見送り、
改めてアントーニョの横顔をじっと見つめた。
(ほんとに一体何者だ、こいつ…?)
スイート以上の上客のみが利用できるレストランに自由に出入り出来て、
尚且つあのオーナーが低姿勢になるほどの相手…。
(よっぽど金持ってるか、そこそこ地位があるか…どちらにせよ)
自分とは住む世界が違う相手。
それだけはよく分かった。
「ロヴィ、腕赤ぅなっとるよ」
「あっ…あぁ…こんなのいつものことだし、平気…―――」
そっと腕をとられたかと思えばアントーニョは徐に赤くなったところに唇を寄せてきた。
ちゅっと軽く口付けられてロヴィーノは慌てた。
「おっお前何して…!」
「ごめんなぁ、俺の気が回らんかったせいで怒られるとこやったな」
「…っべ、別にお前のせいじゃ…いつものこと、だし…」
抜け出したりサボったりを日常に繰り返すせいで怒られるのにはもう慣れていた。
けれど、オーナーのいう“仕置き”はもう勘弁してほしかった。
昔から何度もされていたそれはまさに地獄だ。
顔以外、服で隠れるところを狙って鞭でしばき倒されて痛みで動けなくなった後、
抵抗出来ないのをいいことに身体を好き勝手弄ばれるのだ。
オーナーが飽きるまで、ずっと。
黙って俯いてしまったロヴィーノの頭をアントーニョはそっと撫ぜた。
「よしよし、えぇやん。たまには生き抜きしたって。なぁ?
あんなふうに頭ごなしに叱ることないやん。ほんま器の小さい男やで」
肩を竦ませて笑うアントーニョに釣られるように小さく笑みを零した。
「俺も、そう思う」
ロヴィーノの言葉にアントーニョは笑みを深くして、再びロヴィーノの手を取って歩き出した。
部屋の前まで来ると繋いでいた手は静かに離された。
「ほな、今日はありがとう。つき合わせてごめんな」
「全くだ。まぁ、あのレストラン入って見たかったし…許してやる」
「うん、ほなまた!」
「あ…」
くるりと踵を返したアントーニョに、このまま別れるのはほんの少し寂しいと
思ったけれど引き止めることなど出来る筈もなく、
溜息をついてカードキーでドアを開けようとしたが、
ふいに舞い戻ってきたアントーニョに後ろから抱き締められた。
「ア、ントーニョ…っ?」
驚く俺を他所にアントーニョは首筋に顔を埋め、強く吸い上げ
しっかりと赤い痕がついたのを確認してから唇を離して耳元に声を残した。
「明日も見に行く」
するりと腕を解いて今後こそその場を後にするアントーニョの背を見送った。
首筋に彼の残した熱を感じながら。
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