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「え?」
「だから、街に行きたいから連れてけコノヤロー!」
執務室で仕事をしているアントーニョは、きょとんとして首を傾げた。
一人でしっかりと生活していけるようになるためには、情報が足りないことに気がついた。
俺はアントーニョと暮らし始めてから十年以上、屋敷の外に出たことが殆ど無い。
極たまにアントーニョたちと遠出することはあっても、自分から外に出たことが無く、
移動手段ももっぱら馬車で常に誰かと共に行動して、赤の他人と接する機会もなかった。
今まではそんなこと気にもしてなかったけど、これではいつまで経っても“大人”にはなれないんじゃないか。
そう思ったら、急に外に出たくなった。
「なんやロヴィーノ…あ、何か欲しいものでもあるん?言うてくれたら俺が…――」
「ちげーよっちくしょう」
おねだりに来たと思われたことに腹が立ち、苛立たしげに吐き捨てた。
「ほんなら、何で?」
アントーニョは口調は優しいが、じっとロヴィーノを見据えていた。
これは、貴族の目だ。支配者の目だ。アントーニョは、いつもそれらしくないけど、この目を見れば
あぁ、確かにアントーニョは貴族なんだと思った。逆らうことは許さない、絶対の力…嫌いだ、この目は。
…別に、俺だって逆らいたいわけでも、反抗したいわけでもない。
だって、アントーニョは優しい。だけど居心地が良すぎて、それに甘えすぎていて、このままではきっと駄目なんだ。
…だから――――――。
グッと拳に力を入れた。
「本の中の知識だけじゃ、足りねーんだよ。だから、実際に見てみたくなった」
「何言うてん。あんだけ本読めたら上等やで。街に出たってなーんも学ぶことなんかあらへんよ」
「だけど…っと、兎に角連れてけよ、コノヤロー!」
「駄目」
「何でだよ!一人で行くって言わないだけでもマシだろっ!?」
「あかん!外は危険がいっぱいなんやで。そんなとこにロヴィーノ連れていかれへん」
外は危険がいっぱいだと?だったら、他のヤツは毎日危ない思いをしてるのかよ。
…んなわけねーだろ。そんなことくらい、俺でも分かる。もう子供じゃないんだぞ。
「何にもわかんねぇとか思ってんなら、大間違いだぞこのやろー!」
今までちゃんと『いい子』にしてた。勉強は嫌いだけど、ここにいるためには必要なことだったから頑張ってるつもりだ。
忙しいアントーニョの代わりに庭のトマトの世話だってやってる。料理も出来るようになった。
これだけじゃ足らないのか。もっと何かしなきゃいけないのか?
一日だけでもいいから、外に出たいっていうのはそんなにダメなことか?
「…兎に角、駄目なもんは駄目!この話は終わり!」
「おいっ!勝手に終わらせてんじゃねぇよ!」
「あー、聞こえへんなぁ。なーんも聞こえへんわ」
両手で耳を塞いで視線を逸らせて言うアントーニョの態度にかちんときた。
何だ、その態度!横暴にも程がある!
「なんだよ、それ…じゃあ…一生この家から出るなってことかよ…!」
「……―――――そうや。」
「!ふざけんな!俺は嫌だぞっそんなの…っ!」
嫌に決まっている。
だっていずれお前の隣にはお前と結婚する誰かが立つんだろ?
家族になって、それで子供を生む。幸せな家庭を作っていくんだろう。
そんなのを傍で一生見てろって言うのかよ…!どんな拷問だっ!?

ガタンッ。
アントーニョは無言で椅子から立ち上がると、俺の前に立った。
珍しく怒った顔をしたアントーニョは、物凄く怖かった。
普段は『コイツ絶対馬鹿だろ』って思うくらい能天気で天然で、常に笑顔で。
そんなアントーニョを見慣れているせいで、半端なく怖い。
硬直していると、アントーニョの片手が腰に回されて
もう片方の手は、俺の顎をくいと持ち上げた。
なんだっなんだっ!?とオロオロしている俺に構うわけもなく、
唇が重なって、歯列を割って舌を強引に絡めとられた。
「んんっ…っちょ、…んぅ…」
待て、と胸を押すが、逆に腰に回った腕の力が強くなり
少しの抵抗も許さないとばかりに息をする間も与えない
強引で貪欲なキスだったが、それでもどこかで嬉しく思う自分が居た。
考えていたこと、全部がどうでも良くなる。
「っ…ふぁ…。」
(――――あぁ、こうして俺はこの男から離れられなくなるんだ)
キスに腰が抜けた俺を優しく抱きしめながら、アントーニョは笑った。
「ロヴィーノは何も気にせんでえぇんよ…」
さらりとロヴィーノの髪を指で梳き、耳元でとこか艶のある声で囁く。
(ただ、俺だけを見て 俺の傍でおってな)
アントーニョがそういうから、このままではいけないと思いながらも
俺は何も出来ずに、日々を過ごしてしまう。
…結局のところ、俺自身も離れたくないんだ。
この残酷なほど優しい男から…―――――。






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2012/12/31 up