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メールに添付された地図と店の名前を頼りにその場所に向かうと
入り口付近で待っていたらしいフランシスがアントーニョの姿を見止めると
昼間と同じく片手を上げた。

「ここ結構駅から離れてるし迷わなかったか?」
「地図分かりやすかったし、全然やで」

そりゃ良かった。と言ったフランシスについて店の中へと入った。
フランスの家庭料理を出すレストランは場所も駅から少し離れているせいか
隠れ家的であるものの店内は明るい照明も相俟ってアットホームな
暖かい雰囲気の店だった。
オーナーシェフとは知り合いらしく二、三言言葉を交わしたフランシスが
予約しておいたという二階の個室へと案内された。
ワインや料理がテーブルに並べられるとアントーニョはフランシスに訊ねた。

「そんで、ロヴィのことやけど…」
「あぁ、まぁその前に腹ごしらえしようよ。俺お腹ペコペコなんだよねー」

話をする気があるのかないのか。
フランシスは自分のものとアントーニョのグラスにワインを注ぐと香りを楽しんだあと
グラスに口をつけて舌でその味確かめ、なかなか美味いと呟くと
ワインの話を勝手に始めて更に料理についてまで語り始めた。
自分も人のことは言えないが実に良く喋る口である。
アントーニョもとりあえずはフォークを持ち、料理に箸をつけた。



*



テーブルの上の料理が一通り片付くと、アントーニョはさぁもういいだろうと
空いた皿をテーブルの端に寄せた。

「…ほんとに聞きたいわけ?」
「聞きたなかったら今頃家でロヴィの手料理食べとるわ」

ここのレンストランの味は悪くないが、自分はロヴィーノの手料理で
一緒に晩酌しながらちび分も交えてわいわい食事をするのが最近の楽しみなのだ。
今日はそれを蹴ってまでフランシスに付き合っているのだからと口を尖らせた。

「つってもなー。本人がお前に知られたくないから何も言わなかったんだろうし?
第三者で当事者でなければ身内でもない俺が軽々しく言っていいことじゃないんだ」
「でも俺はロヴィのことフェリちゃんたちに頼まれたんや。
何があったかくらい知っておかんと手の付けようもないやろ」
「でもフェリシアーノたちは何も言わなかったなら、俺も話すべきじゃないってことだろう」
「フランシス、」
「それに言っただろ?俺は第三者で直接その時のロヴィーノのことについて
何か対応したわけじゃない。フェリシアーノから相談されて事情を
掻い摘んで聞いて知っているだけだよ」
「それでもえぇから、知ってること全部教えてや」

頑なに話をするのを拒むフランシスはワインのボトルを手に取って
自分のグラスに注いだ。

「…もし、このことをお前が知ったらきっとあの子らのじいさんのように
怒り狂って暴走するかもしれないから、フェリシアーノたちも口を噤んだんだろう」

(孫命!のあのじいさんが暴走するほどって相当やん!?)

「話を聞いてロヴィーノに接する態度が変われば、あの子はお前よりも察することが
出来る子だから、気付いたらきっと怒るし、傷つくよ」
「せやな…気付かれんようにはするわ」
「フェリシアーノたちにも、俺から話聞いたとか言わないでよね」
「分かった。せやから、話たってや」

フランシスは肩を竦めて溜息をつくとグラスを手に取り、中身を煽った。
ほんの少し迷いを見せたものの、フランシスは口を開いた。


「多分、お前も薄々気付いてたとは思うけど、ロヴィーノも言っていた
『上司』がそもそもの元凶なんだ。ソイツが結構厄介な相手で
その会社の役員の一人の息子でさ。まぁ所謂縁故就職で入って
能力は兎も角課長職を宛がわれていた。その男にロヴィーノは…
――――――セクハラされたらしいんだ」
「なっ!?なんやて!?」

ガタンと勢い良く立ち上がって詰め寄ろうとした俺を
フランシスはまぁ落ち着けと手で制止し、話を続けた。

「最初は肩に軽く触れてきたりする程度だったんだけど、
新入社員歓迎会で酒呑まされて酔っ払ったロヴィーノを家まで送ったらしい。
それからエスカレートしてやたら二人で呑もうって誘われて
休みの日までメールやら電話が頻繁にかかってきて
住んでるところも知られてるから駅やら近場のお店で待ち伏せられたりしたらしい。
ロヴィーノとしては上司だし、役員にその親がいると聞いて
無碍にするわけにもいかなくて、でも何とか回避してたみたいだね。
けど、相談しようにも周りにそういうの話せるヤツもいなかったし、
その時のフェリシアーノたちは店が丁度忙しくて連絡も頻繁には出来なかった」

アントーニョはテーブルの上の拳を強く握った。
どうしようもないとはいえ、力になってやれなかっいた自分を悔いた。

「そんな時に回避できない課の飲み会の後、ホテルに連れ込まれそうになって
それも何とか逃げたらしい。もう無理だと思ってロヴィーノは会社に退職願を出した。
これで終われると思ったのに、そいつは辞めてからもしつこく付きまとってきた。
もう完全なるストーカーだな。電話もメールも怖いから携帯の電源落として
部屋の固定電話も線抜いて。住んでたマンションの近辺うろつかれてるから
とうとう外出するのも怖くなって、買い物すら出来なくなったらしい」

そこから二週間後だ。フェリシアーノがロヴィーノと連絡が取れないことに気付いたのは。
嫌な予感がしたフェリシアーノは店をルートヴィッヒたちに任せて
一人でロヴィーノの部屋を訪ねてみた。
インターホンを押しても返事がないから、外出していると思って
とりあえず預かっていた合鍵で部屋の中に入った。

「そしたら部屋で倒れてるロヴィーノを見つけて急いで救急車で病院に運んだらしい。
寝不足な上に風邪引いて更に栄養失調。眠り込んでいるから
詳しい事情は聞けないからとりあえず入院させることにして
ロヴィーノの会社に知らせるために電話をかけたら何週間も前に辞めていると聞かされて
ビックリしたらしい。わけがわからないままに兎に角
着替えとか必要なものを取りに一旦部屋に戻って、その時新聞やらDMやら
堪ってパンパンになってたマンションのメールボックスから切手も貼られてない宛名も
送り主の名前もない封筒が何通も押し込まれていたのを不信に思った
フェリシアーノがそれの中身を確認して、驚愕てか相当気持ち悪かったのか思い出して身震いしてたね。
中にロヴィーノの隠し撮り写真が何枚も入っててキモチワルイ文章の手紙が入ってた。
そこから改めて部屋をみたらカーテンは引かれたままで窓も長いこと開けてないのか
取っ手のところに埃溜ってて電話線は引っこ抜いてるし、携帯はゴミ箱に捨ててあるしで
漸く何があったのか悟ったフェリシアーノが目覚めたロヴィーノに問い詰めて事が発覚した」

事情を詳しく聞きだしたフェリシアーノは直ぐにロヴィーノの部屋を引き払って
実家に連れ戻した。会社とストーカー上司にはルートヴィッヒとギルベルトが
弁護士を連れて話をつけてロヴィーノの休んでいた間の給料に退職金、
それに加えて多額の慰謝料もぶん取って、今後こっちに干渉しないことを
約束させる書類にサインさせて事を内密に処理したらしい。
けど当然じいさんは激怒した。その男を八つ裂きにすると言って聞かなかった。
でも警察沙汰にすれば嫌でも詳しく話さなきゃいけない。
ロヴィーノはフェリシアーノたちにも具体的なことを話すのを躊躇したくらいだ。
赤の他人に根掘り葉掘りされたくないだろう。
もう思い出したくもないだろうし、忘れることがロヴィーノのためだ。

「それから暫くはあのロヴィーノが食事も喉を通らない、
トラウマであの時の恐怖が度々襲ってきて情緒不安定で
一人で外出なんて出来ないくらいに怯えていたらしいけど、
ずっと家の中で引き篭もっているわけにもいかないでしょ?
それに店もあるし、フェリシアーノだって四六時中付き添っているわけにもいかない。
だからフェリシアーノは俺に相談してきたんだ。
で、ベラドンナにバイトで入ってもらえばいいんじゃないって提案したの」

幸いフェリシアーノの店の連中はロヴィーノと面識のある人間が多いし、
気のいい優しい連中ばかりで、掻い摘んで事情を話しておけば
各々的確に対応してくれるだろう。
それに自分の店ならフェリシアーノもフォローしやすい。

「フェリシアーノの周りがいいヤツばっかりで幸いしたな。
今じゃすっかり元通りみたいで、本当に良かった」
「………でも、ソイツ罰せられたわけやないんやろ?」
「俺が調べたところ、その上司、ロヴィーノの前にも気に入った新入社員に
セクハラして、それで何人も数ヶ月もしないうちにやめてたらしいよ。
あの後外国の支店に飛ばしたらしいけど、そっからの消息がつかめない」
「そういうヤツって捕まってもまた繰り返すらしいやん、
――――――それで、皆警戒しとるんやな?」

フランシスが頷くのを見て、アントーニョは重々しく息を吐き出した。
皆が口を噤むのも分かる。
きっとロヴィーノ自身が一番苦しかっただろう。
そんなことがあったことを知らずにいた自分が歯痒く悔しい。

「ロヴィーノも昔から変なの呼びこむこと多いヤツだけどここまでとはね」
「ほんま…俺、ソイツ会ったらど突き回すだけじゃすまんかもしれんわ」
「殺したらこっちが犯罪者になるよ」

何か起こるとは限らないけど、一応それぞれの方法で
ロヴィーノの近辺に目を光らせているらしい。

「だから、ロヴィーノの一番近くに居るお前も気配ってあげてよね」
「言われんでもそのつもりや。話してくれておおきに、フランシス」

話を聞いたら一秒でも早くロヴィーノのところに帰りたくなって
フランシスにお礼もそこそこに店から出た。



(ロヴィーノは俺が守るんや)




そう決意を新たにした。








*









ちびを迎えに行っていつものように買い物をしてから
アパートに戻ってきてメールボックスを確認すると
DMに混じって見覚えのある切手のない宛名もない封筒を見つけて
ロヴィーノは驚愕した。

(な、 ん   で…)

そんなわけない。
アイツなわけない。
実家からも離れているし、見つかるはずはない。

「にいちゃん?どないしたん???」
「なっなんでもねぇ!!」

封筒をグシャリと握りつぶしてジャケットのポケットに突っ込むと
動揺しながらも部屋に戻って、ロヴィーノはちび分を抱き上げた。

「にいちゃん?にいちゃん???どないしたん???」
「…ちび…」

(アントーニョ…早く帰ってこい)

言い知れない恐怖を感じ、耐えるようにちび分を更に強く抱き締めた。





ぐしゃりと握りつぶした封筒には紙切れが一枚。




『見つけたよ』




『やっと会えたね』



機械的な文字が寒々しく打ち出されていた。








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…こんな感じです。
妄想大暴走で大変すみませんw
しかし自重はしないのでこのまま
突っ走りますよ!!

花景

2013/11/17 up