「鍋パーティー?」
「あぁ。年末年始は何かと忙しいからその前に忘年会、みたいなの?
毎年実家に皆で集まるんだってさ。鍋は本田の提案。
で、良かったらお前らも来ないかってフェリシアーノが…」
日曜日の夕方、帰宅したところで待ち構えていたアントーニョに
自室に引っ張り込まれて一緒に夕食を取っていたところで
ふと朝店に行ってミーティングの後聞かされた話をした。
アントーニョを誘ってみてくれという言葉に、
自分で聞けばいいだろと言ったのだが、フェリシアーノは
『俺はフランシス兄ちゃんに声かけるつもりなんだけど、
じゃあ兄ちゃんがフランシス兄ちゃんに電話してくれる?』
のほほんとした笑顔でそんなことを言ってきた。
フランシスの髭面が脳裏に浮かび、途端に眉を顰めた。
そんな兄の様子を見て、『じゃあお願いね、兄ちゃん』と話を切り上げられたのだ。
じゃあその電話のついでにアントーニョに自分で連絡すればいいだろう。
そう言いたかったのだが、楽しそうに電話をする二人はあまり見たくないな…。
諦めて言葉を飲み込んだのだった。
経緯を思い出してむぅと口を引き結んだロヴィーノにアントーニョは首を傾げた。
「でもそれってお店関係ない俺が行ってもえぇの?」
「知らね。でもどうせじじいも混ざるだろうし、
あとギルベルトの野郎も便乗してくるだろうし、
フェリシアーノも髭に声かけるみたいだし、別にいいんじゃねーの?」
トマトのスープの入ったカップに口をつけたロヴィーノは
アントーニョが一瞬複雑そうな顔をしたことに気がつかなかった。
「“ギルベルト”の野郎、な…――――――…ロヴィ、ギルとそんな仲良かったっけ…?」
ぼそっと呟いたアントーニョの声を聞き取れずに顔を上げた。
今度はロヴィーノが首を傾げた。
「何だよ?」
「にいちゃん、ことりのにいちゃんとなかよしなん??」
ロヴィーノの隣で黙ってご飯を食べていたちび分が急に話に加わってきた。
ことりのにいちゃん…あぁ、アイツいつも鳥連れてたよな。
あまりに馴染んでいて忘れていたが、そういえばそうだな。
しかしロヴィーノは『なかよし』になったつもりは毛頭なかった。
「ちげーよ!あんなのと仲良いとか言われたら悪寒走るっつーの」
「「そうなん?よかったー」」
アントーニョとちび分のハモった声に怪訝な表情をアントーニョに向けると
少々慌てながらアントーニョは作り笑いを浮かべた。
(何が『良かった』んだ…?)
「ま、まぁそれは兎も角!ちびも居って五月蝿いかもしらんけど、
それやったらお邪魔しようかな?いつやるん?」
「再来週の水曜…の夜。平日だから都合悪かったら…」
「いや、夜なら多分大丈夫や」
「そうか?なら馬鹿弟に言っとくぞ」
「おん、頼むわ。久しぶりやんなぁ、皆で集まるん」
「…そう、だな」
俺とアントーニョ、それにフェリシアーノ、じゃがいも兄弟に髭。
昔は良くこのメンバーでつるんでいたことを思い出して
少しだけ懐かしくなった。
食事が終わると『もう帰るん?』と何かと引き止めたがる二人に
あまり長居すると勘違いしそうになるから、早めに自分の部屋に戻った。
昔、よくアントーニョの一人暮らしの部屋に押しかけては
しょうがないなと笑うアントーニョと食事をして、
話をしながら同じベッドで眠った日々はもう昔のことでしかない。
俺を弟みたいに思っているからこそ、我儘を許してくれていただけ。
それを壊したのは、自分。
あの告白をしてしまった日から、弟分でいることをやめた日から
あんなふうに食卓を囲んで他愛もない話をして、
のんびり夜を過ごすなんてもう許されないのだ。
そして、もうアントーニョにはちび分がいる。
自分がアントーニョの家族になれるわけがない。
そんな日はもう来ないのだ。
甘い期待はするなと自分に言い聞かせた。
「はぁ…」
溜息をついたところでゴミ箱の中に捨てた例の切手も宛名もない封書が見えた。
あれを見つけてから一週間。
特に何も起こらずに平穏な日々が続いている。
あの人は関係なく、ただの悪戯なのかもしれない…――――――。
楽観的に考えるのは良くないとは思っても、
ロヴィーノはそう思い込みたかった…。
*
翌日、昼ごろに店の扉を開けて見た目も美しい常連の客の一人を送り出していた時だった。
店のロゴが入った紙袋を女性に手渡して微笑んだ。
「有難うございました、またいらしてください」
「えぇ、また来るわ。その時はまたよろしくね」
「いつでもお待ちしています よ、――――――!」
強い視線に瞳だけそちらに向けるとギクリと身体が強張った。
見覚えのあるその人物に喉の奥で悲鳴を上げた。
男がにぃと口元を吊り上げ笑った。
「…?ロヴィーノ、どうしたの?」
「あっ…いや、なんでも…ではお気をつけて」
「ありがと、またね」
笑顔でひらりと手を振って颯爽と歩いていく女性の後ろ姿を見送り、
再び視線を感じた方向を見るとそこにあの男の姿がないことを確認し
ほっと息をついて店に戻った。
やはり、あの手紙は勘違いなどではなかったのだ。
あの男が再び自分のことを――――――。
ぞわっと悪寒が走り、寒くもないのに身体が震え始めた。
(怖い…!)
実家に帰って来たし、芋野郎たちが話をつけてきたと言っていたから
もう大丈夫と思っていたのに…!
「ロヴィーノさん、僕先に昼休憩入っても…――――――って
どうかしましたか?顔色が悪いですよ?大丈夫ですか?」
「セボルガ…」
ひょいと顔を覗き込まれそうになって慌てて顔を上げた。
セボルガはバイト仲間の一人だが、実はヴァルガスの親戚筋にあたるので
名前だけは聞いたことがあったのだが、顔を合わせたのはこの店でが初めてだった。
フェリシアーノと似た性格でわりと人懐こく、年下であるのに意外としっかりしていて
そして…そして何故かロヴィーノとシフトが被ることが多い。
大学生のくせに朝から夕方まできっちり時間帯を被せてくるので話す機会が多く、
一人暮らしする前は実家にも何度か遊びにきていた。
「なんなら、ロヴィーノさん先に休憩入っていいですよー?」
その声にロヴィーノはふっと口元に笑みを浮かべた。
「そうか、じゃあ先に休憩入るな。あと三時間は戻らないから店のほう頼むな」
「三時間!?ちょっ、それサボりじゃないですか!?
僕もお腹すいてるで出来ればもうちょっと早めに交代してくださいよー!」
「冗談だ。すぐ戻るから安心しろ。――――――多分」
「多分!?もうっロヴィーノさん、お願いですからサボりは勘弁してくださいネー」
焦るセボルガを尻目にくつくつと笑いながらスタッフルームと書かれた札のかかった
ドアを開いて二階にある休憩スペースに向かった。
(フェリに相談…、したほうがいいのか…?)
何かあったら絶対俺に言って、と珍しく真剣な表情でそう言った
フェリシアーノの顔を思い出し、事務所のドアのガラス越しに中を覗き見る。
中では年末のパーティー用のドレスやフロックコートなどのオーダー品の
打ち合わせをしているのかフェリシアーノ。ルートヴィッヒ、本田の他に
お針子部隊があれこれと話し合っている様子が見て取れた。
そんなところに入っていけるわけもなく、
ロヴィーノは黙って休憩スペースに入った。
「…自分でなんとかしねぇと…」
そうだ。こんなことくらい自分でどうにかしなくては。
怯えて縮こまっているだけじゃ、何の解決にもならないし、
何よりあのストーカー男の思う壺だ。
今度何かしてきやがったら相手に頭突きの一つでもお見舞いする勢いで冷静に対処する。
ロヴィーノはそう決意してぎゅっと拳を強く握り締めた。
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