仕事で出かけた先で少し休憩しようとカフェに入り、
窓際の席でコーヒーを飲んでいるとふいに窓がコンコンとノックされた。
顔を上げたそこには良く知った顔がよっと片手を上げた。
さらさらとした金髪にこ洒落たスーツを着こなした男は
店に入ってきてアントーニョの目の前の席に着いた。
「久しぶりだな、アントーニョ!珍しいじゃない?お前がこの辺にいるの」
「おーフランシス!奇遇やなぁ」
仕事でこの辺に用があったのだと簡素に答えると
フランシスは近くにいたウエイターにコーヒーを頼んだ。
ファッションビルがいくつも軒を連ねる人通りの多い大きな駅前は
確かにアントーニョは特別用がない限りあまりこの駅は利用しない。
そういえばこの辺りにフランシスが勤める出版社があったなと思い出した。
ちょうどウエイターがコーヒーを持ってくるとフランシスはそれを受け取り
一口飲むと話を切り出した。
「ちび分は元気か?」
「元気やで。最近ちょっとお手伝いもするようになってなー…
まぁ相変わらずわんぱくやで〜」
「ふぅん。てっきり最近お呼びがかからないからついに再婚相手でも
見つけたのかと思ったんだけど?」
「はは、残念やけどそれはないわぁ」
「なんだ、ロヴィーノとそういう話になってるわけじゃないんだ」
「はぁ!?なっなんでロヴィのこと……フェリちゃんか?」
確かフランシスの出版社が出している女性ファッション誌で
『ベラドンナ』の新作は特集を組んで紹介してもらっていると聞いた。
それ以前に二人は普通に連絡を取り合う仲である。
そういう話をしていてもおかしくはない。
「で?久しぶりに会ったロヴィーノはどうだった?」
によによとフランシスが嫌な笑みを浮かべている。
(どうもこうもないわ!!)
アントーニョは自分の少々冷めたコーヒーを一気に飲み干すと
些か乱暴にソーサーに戻した。
「ものごっつかわえぇちゅっーねん!!もうなんやあの子!!
そら昔っから整った顔してるなーって思っとったけど!?
あそこまで別嬪になっとるとは思わんやんか!!せやろ?!
そんな子が夕食作っておかえりーって迎えてくれて尚且つ
ちびにもめっちゃ優しくてよぉ面倒見てくれんねん!!
どうなん?この状況!たまらんやろ?たまらんわな!?
もう結婚や面倒くさいわ二度とせぇへん思ってたけど
ええなぁって思うやん!?思ってまうやん!?
三人でこのまま一緒に居りたいわって思ってもしゃーないやん!?なぁ?!」
「うん、とりあえず落ち着け」
通りがかったウエイターにアントーニョのコーヒーのおかわりを貰い、
フランシスは自分のカップに口をつけた。
「まぁ、つまりロヴィーノに惚れちゃったんだろ?」
「うぅーん…惚れたっちゅーか…なんちゅーか…」
「うんうん。元々ロヴィーノ好きだよね、お前。
ていうか、お前の好みドストライクなんだろ?」
「え?」
「お前の歴代彼女、特徴がまんまロヴィ。好きなAV女優もロヴィに似てるし
なんつーか、徹底してるよなぁって俺はある意味関心したんだけど」
チョコレート色の髪にオリーブ色の瞳、ちょっと我儘で気が強いタイプで
可愛いより綺麗目な美人。
上げられる特徴にそうかなぁと首を傾げた。
(ちゅーか、過去の彼女とかどんな子やったかとか全く覚えてへんのやけど…)
「ギルがそれロヴィに似てね?実は好きだろって指摘しても全然似てない、
ロヴィーノは幼馴染で弟分で家族みたいなものって言って全否定する。
どうみても特別扱いするくせに、そうやってずっと恋愛感情否定しまくって
挙句ロヴィーノの一世一代の告白をバッサリ切って捨てた男とはとても思えないね」
「それ言われると痛いわぁ…酷い、よなぁ…やっぱ今更って言われるよな…」
多分、ロヴィも俺が好きだと言ったところで今更と思うだろう。
直ぐに信じてもらえるとは思っていないし、フラれても仕方ないだろう。
でもだからこそ、今度は自分がロヴィーノを捕まえに行くのだ。
「どの口が言うかとは思うだろうねぇ。でも俺が思うにアントーニョはさ、
どっかでやっぱりロヴィーノに惹かれてたと思うよ。
そうじゃなきゃあんなふうに特別扱いしないよね。でも、同時にどっかで
『そこに落ちたらだめだ』って思ってたんじゃない?あまりにも安易だもんね。
幼馴染で自分を慕ってくれている可愛い子に恋するって」
昔から知っている仲だから、ある程度甘えても許されるからこそ。
そこに落ち着けば安定すると分かるからだめだと思ったんじゃないのか。
フランシスはそう言った。
「んー…よぉ分からん。でもロヴィとそういう関係になったら周りに
『ほら、やっぱり』って言われるのが想像出来て
それがなんか嫌で嫌でしょうがなかったのは覚えてるわ」
「そりゃ言うだろうね。あれだけべったり一緒にいたらねぇ」
そんなにべたべたやったかなぁと首を捻るとフランシスはからからと笑った。
知らぬは当人ばかりなり。
「昔さお前ん家で夜中まで遊んでた時あったよね。
それでそろそろお開きにするかってなった時にロヴィが既に船漕いでてさ。
フェリシアーノ送るついでにルートかギルが負ぶって帰ろうかって言ってたら
お前さっさと抱き上げて自分の寝室に運んで
『ほな、二人ともフェリちゃんよろしゅうな、おやすみぃ』つったんだよ。覚えてる?」
「うん?」
「弟のフェリシアーノは家に帰すのに、ロヴィは自分家に泊まらせるんだよ?
普通ならどっちも家に帰すか皆泊まっていけばって言うじゃん。
なんでそうなるの。いや、俺は面白かったんだけどさ」
「せやってロヴィ普段も俺ん家よぉ泊まるし…そんなん思いつきもせんかったわ…」
「フェリシアーノが眠そうでもお前は家に泊めないだろ。つまりロヴィだけ」
言われてみればそうかもしれない。
言われるほど特別に扱っているつもりじゃなかったけれど、
客観的に見ればそう見えていたということだ。
自分はここまで無自覚だったのかと分かり易すぎる自分の行動に
若干恥ずかしさを覚えて誤魔化すようにコーヒーを飲み続けた。
それをフランシスは何が面白いのかにやにやと笑ってみていた。
「けど、ロヴィーノは今度はもう一筋縄じゃいかないと思うよ。
好きだって言っても信じないだろうし、からかわれていると思われるだろうね」
「分かっとるよ。…自業自得って言われてもしゃーないわ」
「分かってるならいいよ。あの子もうあんまり傷つけるのやめてあげてよね
…――――――ほんと、優しくしてやれよ?」
一度目を伏せそう言うフランシスにふと思い出した。
この間フェリシアーノたちが言っていた“あんなこと”とは一体なんのことなのか。
「なぁ、フランシス。フェリちゃんたちが言うてたんやけど、
俺が知らん間にロヴィに何があったん?」
「――――――フェリシアーノたちは何か言ってたのか?」
首を振って特に何も聞いていないというとフランシスは
じゃあ詳しくは言わない。と答えられた。
「…ロヴィ、前の会社辞めた理由、『上司が気に入らないから』って言っとったけど
もしかして、それと関係あるん?」
「…お前って鈍いくせに時々妙に勘がいいよな」
苦笑するフランシスに、どうやらビンゴらしい。
「なぁ、何があったん?フェリちゃんたちにロヴィのこと気にしてあげて
言われたけど、なんか物騒なことでも…――――――」
畳み掛けようとするアントーニョに逃げるようにフランシスは席を立った。
「フランシス!!」
「仕事まだ残ってるし、もう行かないとな。お前もだろ。
…終わったらどっか落ち着いて話せる場所に行こう。
こんなとこでする話じゃないんだ、分かるだろ?」
場所は後で連絡する、とフランシスは早々に店を後にした。
残っていたコーヒーを飲み干すとアントーニョも店を出た。
急いで会社に戻るために走って電車に乗り込んだ。
今日も遅くなってしまうだろう。
ロヴィーノにちび分の迎えを頼んでおこう。
少々申し訳ないけれど、一体彼の身に何がおきたのか。
知らなければ何から彼を守ればいいのか分からない。
気に入らない上司、
あんなこと、
心が病むほどのこと…?
いくつも気になるワードが頭を占めたが会社に戻ると
しっかりと仕事をこなすことに専念した。
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