5-3

ぼうっとしている暇などない。
まずはちび分の通う幼稚園に電話をかけてみた。

『はい、とまと幼稚園です』
「その声、ベルちゃんか!?ちびはまだそっち居る!?」
『えっアントーニョさん?…ちび分ならさっきロヴィーノ君が迎えにきてくれはったけど…』
「それ何時ごろ?!」
『えっ?えぇっと…五時十五分くらいやったかなぁ…何かあったんですか?』

五時十五分…いつもどおりやな。
ということは、やっぱりもう家についていてもおかしくない。
途中スーパーに立ち寄るとしても、こんなに遅くなるはずはない。
ちび分を連れて他に寄り道をする際は律儀に事前に連絡を入れるロヴィーノだ。
やはり帰り道で何かあったに違いない。

「ごめんっ…もしそっちにロヴィから連絡あったら教えて、ほな!」
『あっちょっとアントーニョさん!?』

(くそっ…頼むからロヴィ、無事でおって…っ!)

一方的に通話を切ると、今度はフェリシアーノの方へ電話をかけてみた…







*









昼のバイトたちが次々と帰って行く夕方、
フェリシアーノたちは事務所で明日の作業スケジュールの確認を三人でしていた。
店の三階にある作業場では今もお針子たちがオーダー品の作成をしている。
納品日が近づくとまた泊り込みになるだろうが、残業もほどほどにして家に帰した方が良いだろう。
そろそろキリの良いところで帰るように言いに行こう。
そう話していた時だった。

階下からけたたましい足音が響いてきた。
なんだと三人で顔を見合わせているとその足音の人物が事務所の扉を乱暴に開いた。

「フェリシーノちゃんっ悪い!!例の男、お兄様拉致りやがった!!!」
「ギルベルト!?え、何?どういうこと?!」
「ロヴィーノ君が拉致された、とはどういうことですか?」
「アイツの動向には気をつけていたつもりだったんだが…油断した…!
慌ててヤツの車追っかけたんだが、信号で引っ掛けられて見失っちまって…!」

慌てた様子のギルベルトの話に頭がついていかないフェリシアーノは呆然としていた。

「待て、兄さん。落ち着いて状況を一から説明してくれ!」
「あ、あぁ…」

つい最近またロヴィーノの周辺に現れた例の男の話を聞き、
フェリシアーノたちのじいさんの依頼でギルベルトは例の男を張っていたのだが、
例の男が一定距離以上近づくことがなかったので、少し油断していたのだという。
時を同じくして例の男がロヴィーノの周辺をちょろちょろし始めると珍しい外車に乗ったその男は
近くに幼稚園や小学校もある関係で保護者たちは不信を募らせてパトロール強化を警察の方へ頼み、
自らたちもボランティアの子供を守る会が夕方と夜、決まった時間に見回りをしていた。
そのことを知ってギルベルトは現れたら連絡をくれるよう頼みそちらとも連携をしていた。
今日もそちらから連絡が入ったのだという。
その電話を受けながらその場所にバイクを走らせていると、
電話の向こうで相手が動揺した声を上げた。
どうしたのかと問うと、『今、子供の叫び声がして、家の外を見たら男が青年を
車に押し込んで一緒に居た子供をトランクに乗せて走っていった』と言った。
車のナンバーは覚えていたからどっちの方向へ行ったか聞き出し、
その方向へ走っていくとあの男の車とすれ違った。
慌てて方向転換して後を追ったのだが、あの男は脇道を走ったりしながら
大通りに出たところで信号に上手いことギルベルトを引っ掛けると
そのまま走り去っていったのだという。
もちろん後を追ったが、見失ってしまい、兎に角こちらに知らせようとやってきたらしい。

「うそ…兄ちゃん…兄ちゃんが…!そんな…っ兄ちゃんにもしものことがあったら…!
は、早く助けにいかなきゃ!!じゃないと…っ」
「フェリシアーノ、落ち着け!」
「私たちも警戒はしていたつもりでしたのに…こんなことになるなんて…」
「あぁ…すまねぇ。あのボンクラにんな度胸ねぇだろって思ったんだが…」

激しく動揺するフェリシアーノをルートヴィッヒが落ち着かせようとするが、
この状況では皆が皆、動揺を隠せなかった。

「拉致とあってはもう話し合いで解決など出来ませんね。
直ぐにでも警察に届けるべきかと」
「あぁ、そうだな。どうやらロヴィーノだけではなく、子供も一緒らしいからな」
「…だな。目撃者もいるし、何よりヤツの居場所が分からない今は悔しいが
それしか方法はないな…」
「そんな…兄ちゃん…――――――」

どうか、どうか無事でいて。


心の中で祈ったその時。
フェリシアーノの携帯が軽快な音楽を奏で始めた。
それに一瞬皆驚き、フェリシアーノは携帯を見ると電話の着信だった。
相手はアントーニョとなっていた。
慌ててフェリシアーノは通話ボタンを押した。

「もしもしっアントーニョ兄ちゃん!?」
『フェリちゃん!ロヴィと連絡が取れへんっ帰りになんかあったんかも…――――――』
「大変なの!兄ちゃんが…例の人に兄ちゃんが連れていかれちゃった…っ!」
『なんやて…!?』

アントーニョとの通話をスピーカーにして、現在の状況を簡単に説明した。
今日はアントーニョも会議があってロヴィーノにちび分の迎えを頼んだらしく、
悪い偶然が重なり、今回の事態になった。

「ロヴィーノ君たちの身の安全が最優先で考えたのですが、
やはり今回の件は私たちだけで解決するのは難しいかと思います」

店の固定電話で警察に連絡をした本田がそういうと皆が頷いた。
こうなったら手段は選んでいられない。
絶対に兄ちゃんを無事助け出す。
フェリシアーノたちがそう話していた声が聞こえてきたアントーニョは
待ったの声を上げた。

『ギルの話やとちび分も一緒なんやろ?』
「あぁ、どうもそうらしいな」
「アントーニョ兄ちゃん?」
「アントーニョ?」
「アントーニョさん?」

電話の先でアントーニョが笑った。

『せやったら居場所分かるかも!』
「どういうことだ、アントーニョ?」
『GPSや、ギル!』
「GPS…?あっ!そうだ!それがあった!うわっ今思い出した!!」

以前幼稚園を抜け出したことのあるちび分に、もしものことがあったらと思い、
あの後ギルベルトに相談してちび分の靴の底や通園鞄の底にこっそりGPSをつけてもらったのだ。
それは正解だったようでそのおかげでこの間はロヴィーノを追って行ったちびを
直ぐに見つけることが出来たのだ。

「アントーニョお前今どこにいるんだよ?!」
『会社や!』
「お前の会社な、よっしゃ!俺様が今からそっち行ってやる!」

いうやいなや事務所を飛び出していくギルベルトに、制止の言葉をかける間もなかった。

「まさか二人で後を追うつもりなの?!」
「おい、いくらなんでも危険ではないか?あの男、何をするか分からないぞ!」
『事は一刻を争うんや!警察なんかのんびり待ってられんやろ!!
…大丈夫や、絶対ロヴィーノもちび分も無事に助け出す!!!!』

ぷちりと切られた通話に、フェリシアーノは溜息をつき、携帯をポケットに仕舞い直した。
『事は一刻を争う』
アントーニョの言葉に目を閉じたフェリシアーノは開眼した。
「俺たちも行こう!」
「だめだ、危なすぎる。もうすぐ警察も来る。ここは警察に任せたほうが――――――」
「ルートさん、車を出してあげてください」
「本田!?」
「菊…!」

慌てるルートヴィッヒを他所に本田はフェリシアーノに微笑んだ。

「お二人が心配なのは皆同じです。ですが…万が一あのお二人が暴走しないように
制御する必要もあるかと。警察沙汰になった以上、こちらに不利になるようなことは
避けなければなりません。悪いのは全てあの男ですから」
「ありがとう、菊」
「ロヴィーノ君、無事に連れて帰ってきてくださいね。ルートさんもお気をつけて」
「すまない、行ってくる」

警察への説明や店のことは私におまかせください。
そう言って本田はフェリシアーノたちを送り出した。





*






アントーニョは上司であるローデリヒに緊急事態を告げ、
上着と鞄を手に会社を飛び出すと丁度ギルベルトの乗った大型二輪車がやってきた。
ギルベルトはヘルメットをアントーニョに投げるとそれを受け取ったアントーニョが
後ろに素早く乗り込むと、再び走り出した。

「アントーニョっあの男どっちに向かってんだ!?」
「今隣町にある大きい橋越えて山に向かっとる!!」
「っしゃ!待ってろよ、あの野郎!!!」
「二人とも、今助けたるからな――――――!!」


猛スピードで走るバイクが真っ直ぐ道路を突っ切って行った。











TOP BACK NEXT

















2013/12/15 up