7-1

病院についてすぐにちび分は目を覚ました。
無事に助け出されたことを知って安心したのか、
アントーニョの胸に縋りぐすぐすと泣き始めた。
体を縛られてあの男に捕まっていた時でさえ泣いたりしなかったというのに。
強い子だなと思っていたけれど、やはりまだまだ子供だ。
ずっと我慢していたのだろう。
そう思うと、自分ももう少ししっかりするべきだったと反省した。

「うぅっ…に、にいちゃん〜」
「ちび、…その、ごめんな…?」
「なんでにいちゃんがごめんなさいゆぅん?わるいのあのおっちゃんやもん!」

アントーニョの胸から顔を上げたちび分はまだぐすぐすと泣いてはいたが
ロヴィーノの手をぎゅうと握った。
小さいながらもアントーニョと同じ温かい手にロヴィーノもじわりと涙を滲ませた。

「せやせや。ロヴィが謝ることないでー?皆無事でよかった、な?」
「ぐす…うん!」
「二人とも、その…ありがと…な」

ちび分が泣き止んだ頃にそれまで待っていてくれた看護士に連れられて
診察室で医者に診てもらい、傷の手当をしてもらった。
ちび分の方は倒れた拍子に頭など打っているかもしれないということで
念入りに検査してもらった。
もし、少しでも異常を感じたら直ぐに来るようにという医者に頭を下げ、
病院をあとにした。その頃にはすっかり真夜中になっていて、
帰って料理もする気が起きないなとアントーニョと苦笑しながら
本田が手配してくれたタクシーに乗り込んだ。
ハードな一日が終わって疲れていた三人はタクシーがアパートに着くまで寝入ってしまった。
運転手に起こされた時にはアントーニョの顔が間近にあってビックリして飛び上がってしまい、
タクシーの上部に頭をぶつけてしまった。
その音で目覚めたアントーニョとちび分に不思議そうな顔をされた。
(くそ痛ーぞこのやろー!!)
代金はもうもらってるから、というタクシーの運転手に礼を言って
それぞれ部屋に戻った。
その夜はもう何も怖がる必要はないのだと心の底から安堵して
心地よく眠りについた。

*

翌日は朝からまた三人で警察で事情聴取を受けるために警察署へ出向いた。
アントーニョは昨夜病院で俺とちびが手当を受けていた時に
上司に連絡して事情を説明して休みを貰ったらしい。
帰ったら机の上また仕事山積みされとんおやろなぁ…と肩を落としていた。
サラリーマンは大変だなぁと思い切り他人事のように思った。
『ベラドンナ』は今日は休日なので俺の方は問題ない。
ちび分の通う幼稚園には朝連絡をして休むことを伝えてきたらしい。
園長の方へ事のあらましは予め知らせていたらしく、
無事なことを伝えると良かったね、と本当に心配してくれていたようで、
とてもほっとしたと話していたらしい。
もちろん、ベル先生もそれを聞いてすぐに個人的に連絡をくれた。
ちび分に電話を貸して声を聞かせると電話口で涙ぐんでいたという。
たくさんの人に心配をかけていたんだと痛感して居た堪れない気持ちになった。
新聞には例の男と今回の事件の記事が小さく載った。
何故小さくかというとその父親に関する記事が一面で掲載となっていて、
今もテレビのニュースを始め、マスコミに大きく騒がれているせいだろう。
(それとどうやらロヴィーノの祖父が報道に関して規制をしたらしいが、
もちろんロヴィーノ自身は知る由もないことだ)

署についた所で出迎えたのはやはり昨日の警察官、アルフレッドだった。
何故か応接室のような黒い革張りのソファがある部屋に通され、
三人一緒に事情を聴かれることとなった。
また、彼のほか、女性の刑事やアルフレッドの部下だという男もいたが、
主にアルフレッドが話をして彼らは殆ど口を挟まなかった。
お茶菓子が出されて最初は和やかに世間話を少ししながら
アルフレッドは馴染みのファストフード店のコーラを片手に事情聴取を始めた。
拉致された状況の説明、監禁されていた時の状況など、
事細かに聞かれたが、何故か男との関係についてはあまり触れられなかった。

「聞かねーの…じゃない、聞かないんですか?あの男とのこと…」
「HAHAHA!いいよ、タメ口でも。うん、それはだね!もう調べる必要もないくらい
資料を貰っているからね!それに君もあまり根掘り葉掘り聞かれても
答えにくいだろう?だからそこは省略させてもらったんだ。
あと、菊からも君のことをよろしくと言われているんだよ」
「(資料…?)ふーん…そういえば本田の友だちっつってたよな?
なんつーか…すげータイプ違いそうなんだけど、どういうダチなんだ?」

事情聴取なんて堅苦しいものを想像していたのに、
アルフレッドの気さくさに気が抜けた俺は少し興味が湧いて聞いてみた。
見た目からアグレッシブでパワフルなアルフレッドと、
落ち着いていて真面目な本田とはそもそも気が合うのかどうかも謎だ。
アルフレッドは『よく言われるよ』と笑った。

「うーん、趣味友だちってところかな?でも結構菊はあぁ見えて狸だからね!
見た目に騙されてはいけないよ!気をつけたまえ!」
「(狸…?)ふーん…?」
「どうでもえぇけど顔近いで、お前!離れぇや!!」
「で、現場の状況だけど…――――――」
「ごぉら!無視すんなー!!」
「とーちゃん、もちつけ」

アルフレッドは見た目の割りに結構博識で、流行にも敏感らしく
話も面白かったのでつい無駄話に花が咲いて、
その度にアントーニョが割って入るかのように話を戻すという流れで
一先ず事情聴取は終わった。
もちろん、終始イライラとしているアントーニョが
何故怒っているのか、ロヴィーノには分かるはずもなかった。



*




署から出るともう夕方になっていた。
その足でロヴィーノの実家に三人で向かうと既に『ベラドンナ』の皆や
ギルベルト、フランシスにじーちゃんが待っていて、鍋の用意が整っていた。
そう、今日は皆で鍋パーティーをしようと言っていた日だった。
大きな鍋を三つも用意して、飲み物もジュースやウーロン茶に
ビール、ワインと揃い踏み。
ぐつぐつと具が煮立ったところで大宴会の始まりだ。

それぞれがいい具合にほろ酔いになっているところで、
ロヴィーノの傍にフェリシアーノが近づいてきた。

「兄ちゃん、兄ちゃん」
「あん?なんだよ…」
「ふふふ、ねぇねぇ、昨日どうだった?何か進展あったでしょ?」
「はぁ?なんの話だよ」
「だからね、アントーニョ兄ちゃんと、何か進展あった?キスくらいした?」
「は…はぁああああ?あるわけねーだろ!!馬鹿かっ」

何言ってんだ、コイツという目でみるロヴィーノに、
フェリシアーノはアントーニョ兄ちゃん馬鹿じゃないの?!
折角二人きりにしてあげたのにー!チャンスを生かせないから
変な女に騙されるんだよ!!ほんっと呆れた!!と心の中でアントーニョを罵倒した。

「だって、あの時…兄ちゃんとアントーニョ兄ちゃん、それにちび分。
お互い想い合ってて何だかほんとの家族みたいだなぁってちょっと羨ましかったんだよ?」
「…羨ましいってまさかお前…」
「違うよ!別にアントーニョ兄ちゃんと家族になりたいとか
全然全くこれっぽっちも思ってないよ。なんていうのかなぁ…
ほら、兄ちゃん昔からアントーニョ兄ちゃん家入り浸ってたせいで
時々皆でアントーニョ兄ちゃん家行くと食器とかグラスの場所、
兄ちゃん把握してて、アントーニョ兄ちゃんがあれどこだっけ?
って言ったらあれが何か直ぐに分かって、取ってあげたりとか…
なんか、そういうの?兄ちゃんの家族は俺なのに、
アントーニョ兄ちゃんとの方がそれっぽくてさ…ちょっと、嫉妬したよ」

驚いた。フェリシアーノの口から嫉妬なんていう言葉が出てくることに。

「馬鹿だな。お前とは家族だけど、アントーニョは違うだろ」
「うん、分かってるんだけど、でもね?家族って血の繋がりだけじゃないよ。
カタチに拘る必要ないんだなって気がついたんだ。ルートのおかげでね!」

フェリシアーノはふと微笑んだ。
(惚気かよ!!ちくしょー!!)

「あーはいはい、でも俺はぜってぇ認めてやらねぇからな」
「ベラドンナの皆も俺にとっては家族なんだ。だから、兄ちゃんも…」
「お前だって知ってんだろ、俺はアイツにフラレてんだよ!」
「でも、兄ちゃん…」

言わせんな!と睨むとさっきまでじじいと何か話していた本田が
傍に居てぎょっとした。

「ロヴィーノ君、昔嫌いだったものが大人になって食べられるようになったり
ということは良くありますし、必ずしも今と昔が同じ気持ちだとは限りませんよ」
「俺は食い物かよ!?」
「アントーニョさんにとってはあながち間違いではな……コホン、
兎に角、もう一度アントーニョさんに気持ちを伝えてみてはどうでしょうか?」
「無理。つーわけで、この話は終わりだコノヤロー」

そう言って手に持っていたグラスの中身を飲み干すと、
ロヴィーノは立ち上がってガラス戸を開け、テラスへと出て行った。
その後姿を見送って、二人は肩を竦ませた。

「ロヴィーノ君は頑なですね…まぁ仕方ないですけど…」
「アントーニョ兄ちゃん案外ヘタレで使えないなぁ」

これならセボルガの方応援してあげた方がいいのかも…
などと思うフェリシアーノは辛辣だった。
一方アントーニョも悪友たちに同じように発破をかけられていた。

「兎に角な、ほのアルフレッドとか言うのがまた馴れ馴れしくてな…」
「ライバル多くて大変って?それで?お前はどうすんの?」
「どうするって…うぅー…」
「さっさと自分の気持ち伝えておかないと、このままだとロヴィーノ誰かに
捕られちゃうんじゃない?あの子結構押しに弱いところあるし」
「つーか、何で好きならあん時フッたんだよ。意味分かんねぇ」

しかし、ロヴィーノも大概鈍いのだ。
どんなに気のある素振りをしてみても大抵気にも留めてない。
一筋縄ではいかない、というのは分かっていても
もう少しどうにかならないのか。

「そこで靡かないのがロヴィーノだよね。
でも、それが嫌ならこれ以上はやめときなさい。
その方がロヴィーノのためだ」
「いやや。俺とちびにはロヴィが必要やもん」

大事で何よりも大切にした人。
他の誰かに渡したくもないし、
もちろん、他の誰かが代わることもできない。
ロヴィーノだから、家族になりたいんだ。
ちび分も俺のことも気遣ってくれるロヴィーノだから。

「…行ってくる」

丁度テラスへ出て行くロヴィーノの後姿を見て、自分も立ち上がった。
フランシスはグッと親指を立て健闘を祈っているとウインクした。
















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2014/2/24 up