テラスに出たロヴィーノは手すりに掴まり、空を見上げた。
綺麗な星空に目を細めると、背後でガラス戸の開閉音がした。
同じく外に出てきたその人物はロヴィーノの隣に立った。
「さっぶ!ロヴィ、寒ぅないん?」
「中がやたら暑かったからな。むしろ今はちょうどいいくらいだ」
今日はいつもより酒が入っているからだろうか。
冷えた空気がむしろ気持ち良かった。
アントーニョはそうかーと同じように空を見上げた。
綺麗やね。そうだな。なんていうやりとりをした後はお互い黙り込んだ。
何となく二人の間に漂う微妙な空気が居心地悪くて、ロヴィーノは身じろいだ。
部屋に戻ろうかと考えたが、離れがたくもあって…。
どうしようかと内心困っていたところでアントーニョが口を開いた。
「あのな、ロヴィ…」
「なっなんだよ…」
「昨日ロヴィから連絡なくて、携帯鳴らしても全然出んくて…ほんま焦ったわ」
「…わ、悪かったなこんちくしょう」
へらりと笑いながら、責めてるわけじゃないとアントーニョは言った。
視線を空に向けたままアントーニョは言葉を紡ぐ。
「嫌な汗かいて、足元から血の気が引いてな…。
このままロヴィとちび分が俺から離れて居らんくなったらどうしようって
…めっちゃ怖なった。俺にとってはどっちも大事で失くせんもんなんやって
改めて思い知ったわ」
真剣な横顔を見つめてロヴィーノは押し黙った。
ちび分を大事に思うように、自分もそう想ってもらえている。
嬉しさが胸に満ちるけれど、アントーニョには昔から弟のように可愛がってもらっていたから
その延長で、自分も家族みたいに思っているってだけだろう。
そうに違いないとロヴィーノは自分に言い聞かせた。
「また同じようにロヴィが危ない目に合わんように、俺が守ったる!
せやから――――――…」
「心配かけて悪かった。でも今回のは想定外の出来事で、
ちび分まで巻き込まれるとは思ってなかったし…。
でも、次からはちゃんと気をつける。もうガキじゃねーんだから、
自分のことは自分で守るから、お前は俺のことなんか気にするな」
(ほらな。やっぱりちび分と同じ扱いなんだよな)
ちび分だけでも大変なアントーニョにこれ以上負担をかけたくない。
優しいところがアントーニョのいいところだが、
それで人を傷つけることもあるのだ。
「や、そやなくてやな…?俺ロヴィーノこと、」
「ロヴィーノさあーんっ!こんなところにいたんですかー探しましたよ」
「うわっセボルガ!?」
背後からがばりと抱き締められて驚いて離れようと藻掻くが、
全くビクともしないことに妙な焦りを覚えた。
(コイツ、意外に力強い…?!)
「おい、離せ!絡んでくるなっ鬱陶しい!!」
「こんなところでお二人で何をなさっていたんですか?」
アントーニョを挑発するようにロヴィーノにくっついたままセボルガは問うた。
何もしてねーよと叫びながら離せと訴え藻掻くロヴィーノをさらりと無視して
ずるいなぁと呟いた。
「昨日は俺が真面目に大学行ってる間にいいところ持っていっちゃったんですからネ!
少しは遠慮してくださいよ」
「遠慮せなあかん義理ないやろ。それより、ロヴィ嫌がっとるやろが。離したりぃ!」
「あー!セボルガのにいちゃんっロヴィーノにいちゃんはなしてやー!
ロヴィにいちゃんはおれのにいちゃんなんやでー!?」
「こらー!!大事な孫に手出すなー!!」
静かに火花を散らし、睨み合う二人にまたもや割って入るように
先程までお針子の姐さんたちに可愛がられていたはずのちび分と
便乗して姐さんたちに構ってもらおうと絡んでいたじじいまでやってきて
ぎゃーぎゃーと騒ぎ出し、収拾がつかなくなってきて、
ブチ切れたロヴィーノが近所迷惑だからとちび分を除く全員を殴って黙らせると
ちび分を抱き上げて部屋の中へ戻った。
全く五月蝿いことこの上ない。
(…あれ?アントーニョさっき何か言いかけてなかったか?…ま、いっか)
大事な話ならまたアントーニョから話しかけてくるだろう。
ロヴィーノは特に気にすることもなくその日は久しぶりに実家でゆっくりと過ごしたのだった。
*
十二月に入り、アントーニョは年末に向けて、慌しく仕事をこなしていた。
ロヴィーノの方…『ベラドンナ』も本格的にクリスマスセールが始まった。
オーダー製品の仕上げで連日泊り込みで作業をするフェリシアーノ達の代わりに
店頭販売の方を全面的に任されたために他のバイトたちと協力しながらも
多忙により、ここ最近はアントーニョたちと朝顔を合わせる程度になっていた。
クリスマスイブの前日のことだった。
いつもより幾分か遅くにアパートに帰ってきたロヴィーノを待っていたかのように
ちび分とアントーニョが出迎えて久しぶりに一緒にご飯を食べようと誘ってくれた。
疲れていてメシ作るの面倒だなと思っていたので
ロヴィーノは素直にその誘いを受けた。
アントーニョたちの部屋で共に夕食を食べながら、ここ数日の出来事などを話して、
楽しく和やかな時間を過ごした。
ちび分は久しぶりにロヴィーノに構ってもらえて嬉しいのか酷く機嫌がいい。
もっとも、それは親であるアントーニョもそれ以上に機嫌が良かった。
「あ!せや、ロヴィー。明日の夜教会でクリスマスイベントあってなー?
とまと幼稚園の子供たちが賛美歌歌うねん。ちびも参加するし、
良かったら見に来ぉへん?」
「明日とか急だな、オイ…」
チラシをロヴィーノに渡しながらアントーニョが苦笑した。
会ったら言おうと思ってたけど、その機会がなく前日になってしまったのだ。
「にいちゃんも来てくれるん?」
ちび分の嬉しそうな顔に可愛いなと思ってしまったロヴィーノは
チラシの日時を確認した。
「六時か…行けたら見に行く」
「ほんま!?わぁい!」
「ロヴィ、無理せんでもえぇで?」
心配そうなアントーニョに、無理はしないから大丈夫と言って
ちび分の頭を撫でると、部屋を後にした。
*
翌日もやはり飛び込みでプレゼントやデートに着ていく服を買いに
たくさんの人が店に来てくれた。
おかげで忙しかったが、充実していると感じた。
あの会社にずっといたらこんな気持ちになることはなかったんだろうなとふと思った。
イベントに間に合うように仕事を終わらせて
あとはフェリシアーノに任せると教会に向かった。
着いたときには六時を少し過ぎていた。
教会には子供の親たちに限らず一般の人もそこそこ居て
アントーニョを探していると気付いたアントーニョが片手を挙げ手招いてくれた。
「よかった、来てくれて」
「ちびの頼みだからな」
ミサの終盤に子供たちが賛美歌を歌った。
白を基調にしたお揃いの衣装に羽が背中についていてどうやら天使を模しているらしい。
愛らしいわが子に親たちは満足そうに笑って可愛らしい歌声を聴いていた。
アントーニョも例に漏れずにへらとだらしなく笑い、うちの子かわえぇと思っていたが
ロヴィーノはそれ以上に可愛いじゃねーかこんちくしょう!!と
にやけそうになる口元を引き締めるのに必死になっていた。
イベントが終わるとちび分は一目散にロヴィーノへと飛びついた。
「にいちゃんっにいちゃん!見てくれてたー?」
「見てた。…アントーニョ」
「ん?」
強張った顔で振り返るロヴィーノにどうかしたのかと
アントーニョは首を傾げるとロヴィーノは携帯を構えてふるふると肩を震わせて言った。
「写メってもいいか?」
可愛い衣装を着たちび分が相当お気に召したらしい。
ロヴィーノの様子がおかしくて喉の奥で笑いながらえぇよと返した。
許しを得たロヴィーノはちびに向き直って何枚か写メって満足そうに携帯を眺めた。
「折角やし、三人で撮ろうや。あ、すんませーん!」
近くにいた若い夫婦にデジカメを渡して軽く操作説明をして
教会を背にした場所でちび分を抱き上げて、遠慮しようとするロヴィーノの腰を
強引に引き寄せて写真を撮ってもらった。
撮ったものを見て、家族みたいやなぁと呟けばロヴィーノが顔を顰めた。
「家族じゃねーだろ…」
そう吐き捨てるロヴィーノにアントーニョは何も言わずに少しだけ寂しそうに笑った。
そんな二人にちび分は首を傾げた。
一緒のところに帰って、一緒にご飯を食べる。
それって家族じゃないの?と思ったが口には出さなかった。
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