「遊園地?」
今日も何故かアントーニョたちと出勤時間が重なり、何となく一緒に歩いていた。
アントーニョは一歩先をちょこちょこ歩いていくちび分から
目を離さないようにしながら言った。
「うん、得意先の人がチケットくれてん。そんでな、今度の休みに行こうかなって」
「ふーん」
「でな、ロヴィーも一緒に行かん?」
適当に相槌を打っていた俺は聞き流しそうになった。
『ロヴィーも一緒に』?…聞き間違いか?
「…は?」
「ちびもロヴィと一緒のが楽しいやろし…あかん?」
もちろんお金はこっちで出すから心配なしなしやで!
…などと勝手に喋っているアントーニョに、いやいや待て待てとツッコミを入れる。
「折角なんだし、親子二人で楽しんで来いよ。俺は行かない」
「えー!?なんで!?」
「俺がいたら邪魔だろーが」
折角親子揃って出かけるんなら、水入らずで楽しんでくればいい。
何だったらちびの友だちの家族とか誘えばいい。
そっちの方が楽しいんじゃないだろうか。
俺はただの隣人なんだし。
「んなわけないやん!!ロヴィが一緒の方が断然楽しいもん!」
邪魔とかそんなわけないやん!!と全力で否定するアントーニョに
内心嬉しく思わなくもなかったが、答えは変わらない。
「いや、それ以前に俺、お前らと休み被らねーじゃん」
普通の会社員であるアントーニョと幼稚園児のちび分は基本的に土日休みだ。
しかし俺のところは客商売であるために土日は出勤日で
休日は店が休みの水曜と、大体人手が余ってるときに適当に休みを取る。
もっともな理由を述べると、そこには気がついてなかったのか、
『あ…そやんなぁ…』とあからさまにガックリと肩を落とした。
何だよ、俺は悪くねーぞ。
「だから二人で行けよ」
「うー…」
「えーっ兄ちゃん行かんのー!?」
先程までスキップでもしそうなほど楽しそうに前を歩いていたちび分が
立ち止まって振り返った。
「悪ぃな、折角誘ってもらったのに」
「なんでぇ!?なんでなん!?」
「シゴト、あんだよ」
「いやあああっ!兄ちゃんもいっしょやないといややー!!」
びゃー!と大声で泣き始めたちび分にぎょっとした。
なんでそんなに泣く必要があるんだ。
別にアントーニョと二人でも問題なくないか?
遊園地に行けないわけでもないだろうに・・・。
「ちびちび、しゃーないやんかぁ、ロヴィーもお仕事なんやから…」
「いやああああっにいちゃんいっしょやないとやー!!」
子供に泣かれると何だか物凄く悪いことをした気になってしまう。
いや、俺は悪くない…悪くない…はずだ。
泣き喚くちび分を抱き上げてあやしながら、アントーニョは俺にごめんなと謝ってきた。
「気にせんでえぇから」
「でも…」
「うえええっ……にいちゃんはおれのこときらいなんや…っ!
せやからそんなこというんやあああっ!!」
(なぜそうなる!?)
子供の思考回路わけわからん!
今度は俺に嫌われたと泣き叫ぶちび分に頭を抱えたくなった。
「はいはい、嫌われたなかったら泣き止もうなー?」
「いやああああっにいちゃんんん」
「あぁもう!わかった!!分かったから泣くなこんちくしょう!
――――――フェリシアーノに聞いて、休めそうだったら一緒に行ってやる」
仕方が無い。フェリシアーノに言えばきっといいじゃん行ってきなよ!
と簡単に許可しそうだが、ムキムキヤローもいるしそう簡単にはいかないだろうが、
兎に角ちび分を泣き止ませたくて言った。
するとぴたりと泣き止んだちび分が涙目で『ほんまに?』と訴えてくるので
大きく頷いてやった。
「えぇの?ロヴィーノ…」
「聞くだけ聞いてやる。でももしダメだったら諦めろよ」
「うんうん!わぁああい!にいちゃんもいっしょ!にいちゃんもいっしょ!!」
さっきまで泣いていた子供はどこへやら。
ぱああっと明るく花が咲いたように満面の笑顔ではしゃぐちび分に半分呆れながら
きっと聞こえていないだろうが、そう言っておく。
聞くだけ。聞くだけ。あとは知らねーぞ。
「うん、ありがとうロヴィーノ!」
「…ったく、なんで俺なんかと一緒に行きたがるんだか…物好きなヤツ」
美女と一緒だったら分からなくないが、俺は野郎と遊園地なんて行きたくもない。
そう呟くとアントーニョは『ロヴィーノらしい』と笑った。
「でも俺もロヴィーと一緒は嬉しいで」
「………ふん、そーかよ」
赤くなった顔を隠すように俯いて幼稚園の近くに来ると『じゃあな』と
足早に店を目指した。
全くアイツは人の気も知らないで勝手なことを言いやがる。
『ロヴィーと一緒は嬉しい』
別に変な意味でもなく、何気ない一言。
『幼馴染』で『隣人』としてというただそれだけなのに。
(くそーアントーニョのくせにちくしょー!)
顔がにやけて仕方が無い、なんて悔しい。
*
「いいじゃん、行ってきなよ!」
新作のデザイン画を描いていたフェリシアーノは顔を上げて笑った。
(そういうと思った)
早速先程の話をフェリシアーノや本田に言うと反対なんて全くされなかった。
ムキムキヤローまで大学生のバイトも休むという連絡は来ていない。
この時期はセールやイベントも予定していないし、急ぎの品もないから大丈夫だろう。
…――――――なんて言いやがる。
おい、お前の役割は反対することだろう!
なんでいらないところで反論しないんだ!空気嫁!!
「…行きたくないなら別に断ってもいいんじゃないの?」
「……それは、その…」
「何か困ることでも?」
「だから…っ」
(行きたくなくないから困ってるんだろうが!!)
ちびも一緒とはいえ、アントーニョと遠出なんて久しぶりだ。
変に浮き足立っているのを知られたくない。
今だ好きだなんて知られたらドン引きされる。
今度こそ嫌われる。そんなの嫌だ。
「…向こうに迷惑かけたら……って」
「ヴェー………でもそのお隣さんだって兄ちゃんの面倒くさい性格分かってて
言ってくれてるんでしょ?なら大丈夫だよ〜」
「面倒くさいってなんだちくしょー!!」
「フェリシアーノ君、せめてツンデレ…ツンアホと言ってあげてください」
「誰があほだこのやろー!もうお前らなんか嫌いだー!!」
そう叫んで事務所を飛び出して行ったロヴィーノを見送り、
本田はフェリシアーノたちを振り返った。
「…懐いてますね、確実に」
気難しい性格のロヴィーノにしては珍しく早々に気を許している。
その隣人は余程人がいいのか、それとも…。
(子供がいると言っていたし…人妻?でしょうか…)
どんな人物なのか、これは楽しみになってきました。
そう思いながらフェリシアーノを見ると、何とも言えない複雑な顔がそこにあった。
「…フェリシアーノ君?」
どうかしたのかと問えば、フェリシアーノは暫く何かを考えた後口を開いた。
「…兄ちゃんが他の人と仲良くなるのはいい傾向…だと思う。でも…
あぁいう顔した兄ちゃん、前に見たことある…んだよね…」
『それは、その…』
『だから…っ』
『向こうに迷惑かけたら…』
ほんのりと赤く染まった頬と潤んだオリーブ色の瞳。
きらきらした、気持ち。
たった一人だけに向けられていたそれらは、ある時を境に全く見なくなっていたもの。
(まさか、だよね)
「これは早めに確認した方がいいかもしれない…」
「?」
兄ちゃんの隣人だというその人物。
一体何者なんだろう。
フェリシアーノは嫌な予感がしてならなかった。
|