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土曜日の朝、いつもより早めに起床したロヴィーノは身支度を整えた後、
アパートの小さなキッチンで弁当を作り始めた。
今日はアントーニョたちと遊園地に行く約束をした日だ。
前日からそわそわしていたロヴィーノを微笑ましく見ていた本田にふと
『お弁当を用意したらどうでしょうか』と提案されたのだ。
最初はそんなもの作ってどうやって渡すんだ。
そんなの男の俺に渡されても気持ち悪く思われないか、とか。
別にそこまでしてほしいなんて思ってないだろうし、
逆に迷惑になるのではないかと思ったのが。
「ロヴィーノ君の料理は美味しいですから、大丈夫ですよ」
それに折角誘ってくれたのだ、何かお礼をしてはどうかと言う本田に、
なるほど、それなら渡しやすいかもしれない、とその提案に乗ったのだが。

直前になって、やっぱりやめておけば良かったかもしれないと早くも後悔した。
もしもアントーニョが既に何かしら用意していたら、どうするんだよ。
そこまで考えの及ばなかった自分に呆れた。
誘ってくれたからって浮かれるのも大概にしておけよ。
俺とアントーニョはただの隣人だぞ。
今日だって別に相手が俺だから誘ってくれたわけじゃない。
そうだ。俺じゃなくても別に誰でも良かったはずだろ。
勘違いすんな。
既に保冷バッグの中に収めた弁当箱を前に深く息を吐いて、そう自分に言い聞かせた。



*



「おはようさん、ロヴィーノ」
「ロヴィーノにいちゃんおはよー!!」

そろそろ出ようかと声をかけられ、玄関から外に出るとちび分が早速足に纏まりついてきた。
ほんとコイツ、朝から元気だよな…と小さな子供のはしゃぐ笑顔に苦笑しながら
アントーニョに向き直る。

「ほんとにいいのか?俺もついて行って」
「いいに決まっとるやろ。ほらほら、行くで〜」

そう言いながらアントーニョはロヴィーノに纏わりついていたちび分を抱き上げてアパートの階段を下りていく。
その後姿を暫し見つめた後、緩みそうになる口元を引き結び、少し遅れて後に続いた。
『いいに決まってとるやろ』
その一言がどれだけ嬉しいかなんてきっとアントーニョは知らないだろう。
(まぁ知らなくていいけどな)
アントーニョが昨日借りてきたというレンタカーに乗り込み、
車の中でも何かしら楽しそうに喋っている隣のちび分に適当に返事を返しながら
ぼんやりと何とはなしに流れていく景色を見ていた。
天気は晴れ。出かけるには丁度良い気候だった。
高速道路を使って一時間もすれば目的地に辿り着いた。
首都近郊の大型テーマパークと比べると小規模な遊園地ではあったが
休日ということもあって、多くの家族連れなどで結構な賑わいを見せていた。
入場をするとまずは何に乗ろうかとパンフレットを見ていたら
ずっとうずうずとしていたちび分が走り出す。

「にいちゃん、あれのりたい!はやくはやくー!」
「ちょっ、待てっちび!」

慌てて追いかけて捕まえて、一人でちょろちょろすんなと怒っておく。
が、聞いていないのか俺の手を引っ張って走るちび分が目指す先には
遊園地の定番のひとつ、コーヒーカップ。
その名の通りコーヒーカップを模したアトラクションだ。
並んでいる人もそんなに多くはなく、すんなりと乗ることが出来るようだ。
もちろん、小さな子供でも保護者同伴で乗れるものだった。
後ろを振り返るとアントーニョは俺とちび分の後をのんびりついて歩いてきていた。

「ちびがあれ乗りたいってさ」
「うん、ほな二人で一緒に乗ってきぃや」
「お前はどうするんだよ」
「俺は今日は保護者兼カメラマンやもん」

ごそごそと鞄から取り出したデジカメを構えてにっこり笑う。
あぁ、そういえば『父親』ってそういう係だよなぁと頭の端で納得したが、
いや、待てよ?俺は言わばおまけなわけだし、この場合その係は俺がやった方がいいのでは?
その方が家族水入らず楽しめるだろう。

「じゃあそれ貸せ。お前行けよ」
「俺はえぇて」
「何でだよ、」
「にいちゃん、はやく〜!」

前の組が終わり、ぞろぞろと人が降りてくる。
ちび分は既に乗り場の入り口で待っていて早く早くと急かしてくる。
アントーニョはほら、と俺の背を押した。

「ご指名やで、ちびのこと頼むわ」
「…っ分かった!けど、俺のことは撮らなくていいからな」
「大丈夫や!ばっちりイケメンに撮ったるからな!」
「聞けよ人の話!」

ちび分が既に乗っているカップに乗りながら、
こういうのってやっぱ家族で楽しむものじゃねーのか…?
と思ったのだが、当のちび分はアントーニョのことなど全く気にしていない様子だ。
時折アントーニョが向けているカメラに向かって笑顔を向けてはいるけれど。

なんというか。

(気にするだけ無駄っぽいな)

男親と息子ってこういうモンなのかな。
この距離感が二人にとっていい距離感なのかもしれない。
だったら赤の他人の俺が口出しするもんでもないか。
そう結論づけて楽しそうに笑うちび分にふと表情を緩めた。

その後くるくると回る空中ブランコに乗り、
続いてメリーゴーランド、海賊船を模したアトラクション、パイレーツ…
と続いて流石に子供のテンションに付き合うのが辛くなってくると
『少し休憩しよかー』とあちこち回りたくてうずうずしているちび分を諌めながら
アントーニョは売店でジュースを買ってきてくれて、それを三人でベンチに座って飲んだ。

「子供ってすげー元気だよな」
ジュースに差したストローの口を咥えたまま呟くと、アントーニョはからりと笑った。
「せやから、こういうとこは他に誰かちびの面倒みてくれるような人が居らんと
連れてこられへんねん。ほんま、ロヴィが来てくれて助かったわー」
「……てめー最初ッから俺にちびの相手させるつもりだったのかよ!」
最悪だ!と罵れば(別に本気ではない)アントーニョはごめん、ごめんと言いながら、
急に真面目な顔つきになった。
それに、なんだ?と内心ビクビクしながらアントーニョの横顔を窺った。
機嫌よくオレンジジュースを飲んでいるちび分の頭を撫で、アントーニョは口を開いた。
「ほんま、ロヴィが居ってくれて良かったわ。
実はなー…休日でも俺は家に仕事持って帰ってやらなあかんかったりして、
あんまりこうやって遊びに連れて行かれんねん。
フランシスとか、暇な時にたまーに外に連れて行ってくれたりするけど、
それもほんまに稀やし。退屈させてるって分かっててもな、構ってやられへん時のが多い」

そう話すアントーニョの横顔は一人親の苦労が滲んでいて目を伏せた。
アントーニョは会社で仕事をしながら、ちびのことも面倒をみなければいけない。
仕事と育児の両立、難しいことは結婚さえしていない俺でも少しは分かる。
分かるけど、何も口から出てこなくて、こんな時どう言えばいいのかも、
どうすればいいのかも、俺には分からなかった。
下手な慰めの言葉なんてきっとアントーニョは望んでいないだろう。
行き交う人々を眺めながら考えていたが、『けどな、』と再び話始めたアントーニョを
横目で見遣ると、視線が合ってふんわりと微笑まれた。

「けどな、ロヴィが隣に越してきてくれてから、ちびがな、めっちゃ嬉しそうなん。
ロヴィが構ってくれんのが嬉しくてしゃーないねんな。
ロヴィは嫌かもしれんけど、お兄ちゃんが出来たみたいで嬉しいんやろうなー。
家でもロヴィの話めっちゃしよるんやで?」
「…何だよ、何の話だよ」
「んー、それは秘密やけど〜。今日もロヴィと出かけんのめっちゃ楽しみにしてたから、
この後も付き合ってやってくれると嬉しいんやけど…あかん?」

突然ひょいと首を傾げて覗き込まれ、顔の近さに驚いて大げさに仰け反ってしまった。
そのままぎこちなく視線を逸らし、バクバクと煩い心臓に静まりやがれと
内心何度も悪態を吐きながら、狼狽えながら『仕方ねーな』と何とかそれだけ返すと、
アントーニョは更に笑みを深めた。


















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2話はもう少し続きます。すみません;;
また更新に間があいてしまいました。

…あれ?気がついたらちび分とのフラグが立ちそうになって…(笑)
慌てて軌道修正しました。これあくまで西ロマなので!
ちび分×ロマも美味しいですけどもーもぐもぐ。←

花景

2013/4/29 up