そのあとまたアトラクションを2つほど周り、そろそろ昼食にしようかとアントーニョが言った。
レストランやフードコートのある方に足を向けた二人に、あ、と声を上げた。
「ん?どないしたんロヴィー?」
「あ、えっと…こ、これ!」
肩にかけていた大き目の保冷バックをアントーニョに突き出す。
きょとんとした表情のアントーニョにやばいなんか恥ずかしい、これ超恥ずかしいぞ畜生!
と、内心叫びそうになりながら弁当を用意してきたことをしどろもどろに告げた。
驚くアントーニョにやっぱやめれば良かったなんで作った俺!?
馬鹿じゃねーの、と早くも後悔し始め、やっぱいい、あっちで何か食おうぜ!と
それを引っ込めようとしたのだが、その前にアントーニョがトートバックを持っていた
ロヴィーノの手に触れた。
「ありがとう、まさかロヴィがお弁当用意してくれてるとは思わんかったわ〜
どこで食べる?あっちの池の前にあるベンチとかどや?」
アントーニョの指差す方向を見ると一つだけ都合よく開いたベンチがあって
さくさくとちび分をつれて移動し始めた。
もちろん、ロヴィーノのトートバックを持つ手も握ってである。
あまりの事態に戸惑っていると直ぐに目的のベンチに辿り着いて
アントーニョは何か飲み物買ってくると言ってちびをロヴィーノに預けて
近くの売店へ飲み物を買いに行ってしまった。
残されたロヴィーノは暫し呆然としていたが、直ぐに我に返って
トートバックからコンビニで貰うお手拭を取り出してちび分に渡した。
「アントーニョが来る前に手拭こうぜ」
「はーい!おべんとたのしみやー。なぁなぁ、なにがはいっとんの?」
「開けてからのお楽しみってヤツだ。でも、あんま期待すんなよ?」
有り合わせの材料でそんなに凝ったものは作っていない。
外で食べることを考慮して手に持って食べやすいものにしたが、
味付けなどはロヴィーノ好みでいつもどおりにしてしまった。
子供も食べるものならもう少し薄味の方が良かったかもしれない。
しまった、そこは考えていなかった。
「お待たせ。ほい、ロヴィー」
「あ、あぁ…グラッツィエ…なぁ今更だけど、コイツって食物アレルギーとかなんかあるか?」
「んー?いや、ないと思うで?」
アントーニョの一言に内心ほっと胸を撫で下ろした。
まさか自分の作ったものでちびに何かあったらと思うとアントーニョに合わせる顔がない。
そんなロヴィーノの心配を他所にアントーニョはちびを真ん中にロヴィーノの反対側へ腰かけた。
トートバックから取り出した弁当を広げ、蓋を開けた。
二段になっている大き目のランチボックスの一段目の網目のケースには
パン屋で買ったパンに生ハムとモッツァレラチーズ、トマトを挟んだパニーニ、
二段目のパックになっている方に鶏肉のフリットや一口サイズに切ったチョリソーと野菜をピンに挿したもの、
カットしたフルーツを入れた。
「ロヴィ流石やなぁ、美味そう!いただいてもえぇ?」
「お…おぅ…」
「わぁい!いただきまーす!」
早速パニーニに齧り付く二人をちらちらと窺いながら自分もパニーニを手にとった。
一口齧り付いて味は多分大丈夫だと確認する。
「おいしい!にいちゃんこっちもたべてえぇ??」
「おぅ、好きなだけ食え」
ちびは喜んで食べてくれているようで内心嬉しく思ったのだが、
アントーニョが黙り込んでいるのが気になった。
(何かまずかったのか…?)
「お、おい!アントーニョ、何か言えよこのやろー!」
「えっ?あ、あぁ美味いで!流石やなぁ…なんか、懐かしいわ」
昔皆で屋上に集まって昼飯食べてたなぁ。
アントーニョは懐かしそうに目を細めた。
「なぁ、昔ロヴィとフェリちゃんのお揃いの弁当が羨ましくて
えぇなぁって言うてたらロヴィが作って持ってきてくれたやん?
あれめっちゃ嬉しかったんやで」
「あぁ…お前があんまりにもうるさかったからな。仕方なく、だ」
それから暫くは弁当を3つ用意していたのだが、
アントーニョに彼女が出来たのを知って、作るのをやめたんだっけ。
(しかしその彼女というのはひと月も経たずに別れたらしいが)
「あれ、何でやめてもたん?俺毎日めっちゃ楽しみにしてたんに…」
「何だよ、今更蒸し返すな。…大体、作って欲しいなら彼女に言えばいいだろ」
喜んで作ってくれたかもしれないのに。
…このくだり、昔もしたよな。
あん時は『彼女に言えば?』っつったらアントーニョが何でかキレたんだよな。
俺とは女の話したくないみたいで『そんな話してへんし、ロヴィには関係ないやん』って。
バッサリだったな。あれ結構傷ついたぞ。
アントーニョは絶対覚えてねーんだろうなぁ…。
…つーか、ほんとなんでコイツこんなモテんだよ。俺の方がイケメンなのに…!
若干腹を立てながら手の中のパニーニを無心で食べた。
「え?なんで??なんでそこで彼女の話になるん?」
「はぁ?なんでってお前……男に弁当作ってもらうより女の子の手作りのが
嬉しいに決まってんだろ。…違うのかよ?」
俺は絶対にそっちの方が嬉しい。
……いや、女の子にそんなことしてもらった覚えはないけど。
精々家庭科の授業で作ったお菓子を分けてもらう程度だった。
しかもアントーニョとかフェリシアーノにっていうついでだった。
(くっくそおおお!俺だって…俺だって…ちぎー!)
ってだからこの話、デジャブ過ぎんだろ。
「俺は女の子の手作りより、ロヴィが作ったのが食べたかったんやもん」
家に帰っても一人で食事をすることが多かったアントーニョにとって、
ロヴィーノとフェリシアーノのように両親はいなくても
仲の良い兄弟にその兄弟を溺愛しているじいさんという家族が眩しく映っていたのだ。
(家族でお揃いの中身のお弁当ってえぇなぁ)
そう思っていたからいいな、と何度も口にした。
鬱陶しそうにしていたロヴィーノが次の日に頬をトマトのようにしながら
乱暴に弁当の入った包みを突き出してきたのに驚いたのと同時に嬉しかった。
本当に嬉しくて、嬉しくてついでだというロヴィに何度もありがとうと言った。
弁当の中身を見ても感動した。
ロヴィともフェリちゃんとも本当に同じだったから。
(やっぱあん時かなぁ、家族ってほんまえぇなぁって思ったん…)
美味しかったし、何よりわざわざ自分の分まで用意してくれたロヴィの優しさに
泣き出しそうになったのなんて、そんなのはロヴィーノは知らないだろう。
だから家族に憧れていたアントーニョにとって、女の子に作ってもらうそれよりも
ロヴィーノのお弁当の方が嬉しいものだったのだ。
「………お前ほんと物好きだよな」
「ん?そう?…あれ?ロヴィどしたん?耳赤いで?」
ソッポを向いたままパニーニを食べるロヴィーノの横顔にそう声をかけると
しらねぇよ!気のせいだ!と怒鳴り返された。
齧り付いたパニーニの味も昔と変わらず、懐かしさに胸がいっぱいになる。
アントーニョはやっぱり自分にとってのロヴィーノは特別なのだとそう実感したのだった。
*
夕方までたっぷりと遊んで疲れて眠ってしまったちび分を負ぶって
辿り着いたアパートのそれぞれの部屋の前に来るとアントーニョは
部屋の鍵をドアの鍵穴に差し込むとロヴィーノに笑顔を向けた。
「今日はほんま有難うな、ロヴィ。めっちゃ楽しかったし、
お弁当も用意してくれてほんま嬉しかった。またちびと遊んだってな?
ちびも喜ぶし…」
「ん…俺もまぁ、楽しかった」
そういうとアントーニョはへらりと笑った。
「ほな、おやすみ…――――――」
「あっ…アントーニョ!」
「ん?」
引き止めたものの、何をいうのか全く考えてなかった。
何となく、このまま今日を終わらせたくなかったのだ。
もっと二人と一緒に過ごす時間が欲しくなった。
何を馬鹿なことを。そんなのアントーニョには迷惑かもしれないというのに。
「何?ロヴィー」
優しい声に胸がぎゅっとなる。
ロヴィーノは開きかけた口を再び引き結んだ。
昔のように関係ない、と突っぱねられたくはなかった。
けれど、このままドアを開けて部屋に入り閉めてしまえば元通りただの隣人になる。
それ(ただの隣人)だけではもう。あまりにも寂しかった。
アントーニョはちび分を抱え直してからロヴィーノにふと微笑みながら手を伸ばして
頬に触れてきた。
その暖かさに頬が熱くなって、少し俯いて、そのまま口を開いた。
「あ、その…ッ…また俺に手伝えることがあったら…
手、貸してやらねぇでもない…ぞ。だから、」
「ごめんな、ロヴィ。もしかして、昼間の話気にしてくれてるん?
せやったらほんま気使わんでえぇよ?」
大丈夫だ、気を使ってくれてありがとうというアントーニョに唇を噛んだ。
また、関係ないと言われてしまったようで、悲しかった。
「ッそうじゃねぇよ!そうじゃなくて…もし、俺とお前の立場が逆だったら
俺が迷惑がってもお前は何かと世話焼いてくれんだろ?」
もしもロヴィがバツイチ子持ちで一人で子育てをしていたら。
言われてアントーニョはロヴィに似た小さな子供と別嬪で男前なロヴィ、
両手に花状態を想像して悶えた。
(何それオイシイ…!!)
「せやな…嫌がっても無理矢理くっついて世話するな…」
「だろ?だから…遠慮すんな。俺もちびのこと嫌いじゃねーし…」
言いながらちび分の頭をそうっと撫でた。
幸せそうな寝顔は起きる気配もない。
その優しい手つきとロヴィーノの小さく笑む様子にアントーニョはドキリとした。
「うん…うん、ありがとうなロヴィ…。ほな、もしもの時はよろしゅう頼むわ」
「おぅ。じゃあ、な」
「うん、おやすみぃ」
お互いそれぞれの部屋のドアを開けて、そしてバタンと閉じた。
アントーニョは閉じたドアの鍵を閉めながら
今日の出来事を頭の中で反芻させた。
自分とちび分とロヴィーノ。三人で暮らせたら楽しいだろうな。
ふとそんなことを思ってしまい、いやいやと頭を振った。
しかし暫くアントーニョはそんな妄想をし続けたのだった。
|