3-2

土曜日の朝、アパートの部屋を出て鍵をかけると廊下を通って階段を降りて行った先で
メールボックスの前で背伸びして一生懸命手を伸ばしているのを見つけた。
今日は土曜日だからアントーニョもちび分も休みで
朝は会うことがほぼないのだが、今日は違った。

「ちび、何してんだ?」
「あっにいちゃんおはようさん〜!」

どうやらメールボックスから出ている新聞を取り出そうとしていたらしく、
ちび分の身体を抱き上げてそれを取るのを手伝ってやった。

「ありがと、にいちゃん!…にいちゃんはきょうもおしごとなん?」
「あぁ、お前はアントー……いや、おとーちゃんの手伝いか?」
「うん!おとーちゃんまだねてんねん。せやからさきにな、とっておいてあげてなっ
あとでびっくりさせるさくせんやねん!」
「ふーん、偉いなお前。じゃあ、俺もう行くけどお前は早く家に戻っておけよ?」
「はーい!またなぁ、にいちゃん!」

ぶんぶんと元気よく手を振るちび分にひらひらと振り返すと歩き出した。
今日は随分と聞き分けがいいなと思いながら、少し首を傾げたのだが
まぁいいかと思い直して後ろを振り返ることもなく先を急いだ。
時間通りに行かないとフェリシアーノたちが何かあったのでは、と
心配して何度も携帯を鳴らされるので鬱陶しいのだ。
如何せん心配性過ぎるのも困りものである。
(まぁ、そうさせてんの俺のせい、だよなぁ…)
心配しなくてももう大丈夫ってところを見せていくしかないだろうな、これは。
しかしこれではうかうか遅刻もサボりも出来ない。
ルートヴィッヒが聞いていたら物凄い勢いで怒り出しそうなことを考えながら
ロヴィーノは今日一日も何も変わりなく過ごせると思った。この時までは。


ちび分はロヴィーノが背を向けると直ぐに階段を駆け上がって
自宅に飛び込むと新聞を玄関に置いて再び外へと出た。
アパートを出てロヴィーノの姿を見つけるとほっとした表情を見せ、
その後を気付かれないようについて行った。
好奇心旺盛な子供は探偵ごっこのつもりらしく、
今日の標的はロヴィーノにしたらしい。
これが今回の事の発端になるとは露とも知らずに…――――――。




*



(何か…つけられている?)
後ろを時折振り返るが、その正体は分からなかった。
気のせいだろうか。とも思ったのだが、どうにも気味が悪くて
職場である店に近づくと走り出した。
店の前までくると裏に回るべく細い脇道に入って息を殺して待つ。
やけに心臓の音が大きく聞こえた。
タタっと小さな足音が聞こえて後からやってきたその人物を見て目を見開いた。

「あれっあれ?どこいってもうたんやろ、にいちゃん!?」
「ちびっ!?お前何やってんだこのやろー!!」
「うわぁっにいちゃんやーっよかったぁ…って、あぁー!!みつかってもうた!!」

追跡失敗したわというちび分に呆れながら、その頭を軽く叩いた。
全く、ビックリさせるんじゃねーよ!マジビビったっつーの。

「ったく、お前本当にアントーニョそっくりだよな」

くだらんことを思いついては実行して怒られる。
まさに小さな頃のアントーニョとそっくりである。

「ほら、早く帰れ。フェリに見つかるとヤバイし…」
「………かえりかた、わからん」
「……………だよな」

遊びに夢中になって帰り道のことなど考えてもいなかったのだろう。
送ってやりたいけど、フェリシアーノになんと言えばいいんだ?
いい言い訳が思いつかねぇ。
それになにより、ちび見たら絶対親が誰かなんて直ぐにバレるよな。
何せ小さい頃から知っているわけだし…どうする…。
電話でアントーニョに迎えに来させる手もあるが…アイツのことだ。
『じゃあついでにフェリちゃんに挨拶でも…』とか言いそうだ。
――――――却下だな。
しかし、背に腹は変えられない…。
ロヴィーノは迷った挙句、携帯を取り出した。

「――――――おや?ロヴィーノ君、こんなところでどうしました?」
「ヴォアっ!?……っほ、本田…」

裏口から出てきた本田はロヴィーノと小さなちび分を交互に見て、微笑んだ。

「もしかして、こちらのお子さんは例のロヴィーノ君のお隣さんのお子さんですか?
可愛らしいですね、お名前はなんとおっしゃるのですか?」
「ちび分です!おにいさんはにーちゃんのしごとさきのヒト?」
「そうですよ。本田菊と申します」

本田は膝を折ってちびと目線を合わせ自己紹介をすると立ち上がった。

「彼はどうしてこちらに?」
「あぁ…なんか、俺の後をつけてきたみたいで…」
「そうですか…。では親御さんが心配するでしょう、直ぐ連絡を取ったほうが良いかと」
「あ、あの…本田、このことは…――――――」

内緒にして欲しい。
そう言いかけたところでいつもの間延びした声が聞こえてきた。

「ヴェー、兄ちゃん?菊も何してるのー?ミーティング始めるよー」
「時間厳守だ、二人とも直ちに店に戻るように」

(うわあああああああああっ何で出てくるんだこの野郎ー!!)
フェリシアーノとルートヴィッヒが店から出てきて更にちび分を見て首を傾げた。

「何、してるの?二人とも…?それにその子の顔、どっかで見た覚えが…」
「例のロヴィーノの隣人の子供…、か?何故ここに?」
「う、ぁ…いや、その…っ」

だらだらと冷や汗をかきながら頭をフル回転させて言い訳を考えるが
全く何も出てこない。どうする?俺今すげーピンチ!?
絶体絶命という事態に陥っているところに更に悪いことが起きた。
今日の俺、絶対ついてねぇ。

「ちびー!?あっロヴィ!!なぁっもしかしてそっちにちび分行ってへん!?」

息を切らせたアントーニョが飛び込んできた。
(うわぁああああっちょっ、お前何で来たこのやろー!?)
不測の事態にロヴィーノは焦ることしか出来ない。
そんな俺を他所にアントーニョはロヴィーノの近くにいたちび分に気がついた。

「ちびーっお前何勝手にロヴィーノについてってるん?!あかんやろ、邪魔したら」
「ちゃうねん、たんていごっこやねん!」

何が探偵ごっこだ。この阿呆!とアントーニョがちび分を叱っていると
そのアントーニョに本田が声をかけた。

「ちび分君のお父さんですか?」
「あ、はいそーで、す…」

にこやかな本田の後ろからずいと前に出たフェリシアーノは不穏な空気を纏いながら
アントーニョに笑顔を向けた。

「ヴェー久しぶりだね、アントーニョ兄ちゃん。…でもどういうことかな?
説明してもらえる…よねー?」

その凍てつくような笑みを見て、アントーニョと俺は固まるしかなかった。









*









「なるほど…ね。やっぱり兄ちゃんのお隣さんってアントーニョ兄ちゃんだったんだ」

兎に角ずっと外にいるのもあれですから、という本田の提案で店の中に移動した。
そしてずっと黙っていた隣人の話をするハメになってしまった。

「やっぱりってどういうことだよ」
「だって、兄ちゃんが赤の他人に直ぐに気を許しちゃうとかあり得ないから、
じゃあもしかして昔の知り合いかな?って思うじゃんか」

でも、まさかそれがアントーニョとは…とフェリシアーノはアントーニョを一瞥した。
その視線にアントーニョは苦く笑った。
昔、アントーニョが高校を卒業して大学に入学する際、
地元を離れるときにアントーニョはフェリシアーノに二度と兄に近づくな。
と、そう言われたのだ。
もちろん、フェリシアーノが訳も言わずにそんなことは言わない。
原因も理由も理解していたから、それからアントーニョは
ロヴィーノに一切連絡を取らないでいたし、この街にも戻るまいと思っていた。
しかし、前妻と離婚し、ちびと二人になると、どうしようもなく
この街に戻りたくなって、帰ってきてしまったのだ。
もちろん、住んでいる場所は以前とは違う場所ではあるが…――――――。

「どうして俺たちに内緒にしてたの?」
「そっそれは…その…っ」

なんと言えばいいのか分からなくて俯いた。
まさか二人に顔を合わせて欲しくなかったから、と正直に言えるわけもない。
黙っているとフェリシアーノはロヴィーノの両手を握って顔を覗き込んできた。

「あのね、兄ちゃん。別に俺、兄ちゃんのこと責めてるわけじゃないよ?
兄ちゃんには兄ちゃんの理由があったんだよね?でもそれ俺には言えないのかなって
思っただけだから…困らせてごめんね?」

まぁ何となく理由は察してるから、もう聞かないよ。
フェリシアーノはそう言って手を離した。
何となくバツが悪くて視線を合わせることも出来ないまま
悪かった、と小さく謝るとフェリシアーノはうん、と笑った。

「さて、兄ちゃんへの追求はこれくらいにして…アントーニョ兄ちゃん、ちょっといいかな?」
「もちろん、お前に拒否権はないからな」
「アントーニョさん、こちらへ。ちび分君は申し訳ありませんがロヴィーノ君
少しの間見ていてもらえますか?」

有無を言わせぬ雰囲気の三人に連行されるようにアントーニョは
事務所の隣の応接室へと連れて行かれた。

三人のただならぬ雰囲気に訳が分からないロヴィーノはそれをただ見送った。
そんなロヴィーノの服をくんとちび分が引いた。

「にいちゃん、おれ…おなかすいてしもた…」

無邪気なちび分に毒牙を抜かれて、ロヴィーノは肩を竦ませた。
そしてちび分を抱き上げると休憩室に向かった。
椅子にちび分を座らせると棚からもらい物の焼き菓子をいくつか皿に並べてテーブルに置いた。
喜んでそれに手をつけるちび分を横目にミルクをたっぷりと入れたカフェオレを作って
来客用のカップに入れて出してやった。

(アントーニョ大丈夫だろうな…?)
(それと、馬鹿弟…余計なこと喋ってたら後でシメる!!)

ちび分の食べっぷりを見ながら密かにそう決意するロヴィーノだった。








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ちび分にフラグを立ててもらいました(笑)
そして連行される親分www
次回すーじくVS親分。
どうしましょう、全く親分が勝てる気がしません!

花景

2013/10/27 up