翌週、今度はアントーニョの会社の会議室に再び集まった悪友たちは
オーナーの悪事を暴く、と意気込んだものの、
どういった方法でするか悩んでいた。
「売春の強要なんて現場押さえるくらいしか証拠ねぇしな」
「歌姫使って集めた金がマフィンの活動資金にもなっとるちゅーのも
確実な証拠なんかそんな簡単に出てくるわけないしなぁ」
秘密裏に動いてる警察さえも掴めないものを見つけるなんて
そうそう簡単にいくわけもない。
具体的なことが定まらないまま、時間だけが過ぎていった。
あまり乗り気ではなかったフランシスが見かねて口を開いた。
「ねぇ、悩む前にさぁ…あのオーナーの悪事を暴くっていうの、
それって本当に必要なことなわけ?」
「なんだよ、フランシス。お前は犯罪者の肩を持つのか?」
「そうじゃないけど、あの歌姫二人が利用されてるのが許せないんでしょ?二人は。
でも、逆にあの歌姫がそれを利用してるとしたら、どうするの?」
「…利用、しとるって?」
「あのオーナーのやってることは確かにアレだけど、
そのおかげで今や『歌姫姉妹』は公演をしたら連日超満員の人気歌手。
…有名になれるなら、自分の身体売ってもいい、喜んで差し出しているとしたら?
お前らが正義振りかざしてオーナー捕まえるのが、むしろ余計なお世話だったらってこと」
あの二人を『天使』とか清純なイメージ持って見てるから
利用されてると思い込んでるだけで、実際は互いに利害の一致で
合意の上じゃないのか。
そうフランシスは言ったが、アントーニョにはそうは思えなかった。
けれど、フランシスの言うとおりなら自分達のしようとしていることが
歓迎されない事態になるのなら。
「ありえねぇ!俺たちのフェリシアーナちゃんがんなことするわけねー!」
「そんなのわかんないでしょ?ねぇ、トーニョ」
アントーニョは無言でガタンと椅子から立ち上がった。
「…確かめに行く。そんで、もし二人が利用されとるんやったら
改めて作戦考えよ。ほな、そういうことで、ギルいくで」
オーナーに利用されているか否か。
もしもフランシスの言うとおりであったら、
自分はやはりあの歌姫たちに失望するかもしれない。
けれど、アントーニョにはどうしてもあの赤の歌姫が気になって仕方がなかった。
もし、会って話せたのなら…――――――。
あの寂しげな瞳の奥で何を考え、どう感じているのか。
知りたいという気持ちがアントーニョを動かした。
*
調査なんかで何度も周辺をうろついていたというギルベルトに
オーナーの自宅兼事務所と稽古場があるという街にやってきた。
街の中心部から少し外れた場所にあるというのでギルベルトに
先導させて歩いてその場所を目指していた。
活気のある街の中心部から少し離れると、人通りは途端に少なくなり、
人ともあまりすれ違うことがなくなってきた時だった。
建物と建物の狭い路地を横切ろうとすると、何か悲鳴のようなものが聞こえてきた。
それはギルベルトにも聞こえたらしく、互いにに目を合わせると
声のする路地へと足を向けた。
「俺らのボスがお前に用があるっつってんだよ、来い!」
「ウヴェェ!やだよー!離してよー!」
黒服にサングラスといういかにも怪しい二人組に腕を捕まれ
路地の反対側の道に止められた黒塗りの車にまだ青年というには
まだ幼い、くるりとした特徴的な癖毛のある少年が押し込まれそうになっていた。
(誘拐…!)
瞬時に状況を理解したギルベルトが素早く一人目の後ろに回り込み、
その腕を捻り上げた。続いてもう一人をアントーニョが殴りつけた。
「ぐはっ!」
「いだだだだっ!なっなんだお前らは!?」
「ケセセセっ!何って俺様は、こういうモンだけど?」
ニヤリと笑ったギルベルトが警察証を見せると、ゲッという顔をした
二人組は一歩後退り、車の運転手もヤバイと思ったのか
二人を置いてさっさと逃げるように走っていくと、
二人は顔面蒼白で慌ててその車の後を追っていった。
「ちっ、逃げやがった」
「なんや、手応えないやっちゃなぁ」
そういいながらも、特に後追いはせずに見送ると、
拉致されそうになっていた少年を振り返った。
「キミ、大丈夫やった?怪我は?」
「ヴェッ!?…な、ない、です。どうもありがとーございました」
ぺこりと頭を下げた少年の顔を見て、俺とギルベルトはあれ?と思った。
あの『歌姫姉妹』に似ているような気がした。
(いや、でもこの子は男の子やし…)
まさかなぁ…。と、ギルベルトと顔を見合わせ、ないないとはははと笑うと
それじゃあとその場を離れようとしたアントーニョのコートを
少年はがしりと掴んだ。
「お兄さんたち、ケーサツの人?!」
「えっ、いや俺はちゃうけど…」
ギルベルトに視線を送ると、少年は更に縋るように強く服を握り込んだ。
「お願いしますっ!俺の…――――――俺の兄ちゃんを助けて!!!!!」
「助けてって…?」
少年は酷く辛そうに眉を寄せ、頷いた。
「俺、フェリシアーノ・ヴァルガス。
お兄さんたち、『歌姫姉妹』って聞いた事ある?」
「知ってるもなにも…俺らあの二人のファンやし、なぁ?」
「フェリ、シアーノ……ってまさか!」
ギルベルトの声にフェリシアーノは苦笑した。
「『歌姫姉妹』の妹の方、白の歌姫ことフェリシアーナは俺のことだよ」
((うわあああああっやっぱりかー!!))
女の子だと思い込んでいたが、まさか男とは…。
密かにショックを受けていたが、
アントーニョはそういえばと思い出す。
ローデリヒが最初『彼ら』と言っていたのを言い直していた。
男の子やったかー…。
いや、でもそうか。それでどこか浮世離れしているのか。
納得するアントーニョとは裏腹にギルベルトはショックが隠し切れない。
「それで、助けてっていうのは、もしかして、」
「うん、そう。ねぇ、お願い!赤の歌姫…俺の兄ちゃんを助けて」
そう訴えるフェリシアーノはどこか切羽詰っていた。
その揺れる瞳にアントーニョは頷いた。
「とりあえず、場所移そう。話はそこで聞くわ」
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