アントーニョに手を引かれて城を抜け出し、城下に出た。
人通りの多い大通りには様々な店が立ち並んで賑やかだ。
しかしアントーニョは陽気な人々の声とは反対に黙ったまま
どこに行くつもりなのか、ずんずんと脇目も振らず歩いていく。
俺はそんなアントーニョに声をかけていいのか分からなくて
結局黙ったまま手を引かれて歩いていた。

暫くそうして歩いていたところで突然アントーニョが一軒の店の前で立ち止まった。
急に立ち止まるものだからロヴィーノはその背に顔からぶち当たった。
打ち付けた鼻がじんじんと痛みを訴えた。

「いってぇ!急に立ち止まんなこのやろー!」
「あ、ごめん」

そういいながらあまり悪びれてない様子に腹が立ったが、
ロヴィーノの手を引いたままその店に足を踏み入れた。
ショーウインドウには煌びやかなドレスが飾られていたことから
ドレスを仕立てる店のようだが、果たしてアントーニョは
こんなところに一体何用なのだろうか。

知り合いらしい仕立て屋の女主人はアントーニョに何かを言われて
笑顔で頷き、奥へと引き込んだ。
その間にアントーニョはロヴィーノの白いエプロンのリボンを解いて外してしまう。
ロヴィーノが口を挟む間もなく、今度は戻ってきた女主人の手から布を受け取ると
それをロヴィーノの肩にかけた。

「え…?」

襟にファーがついた生成りのケープをかけられて
きょとんとアントーニョを見返すと、アントーニョは首元のリボンを結び笑顔で頷いた。

「かわえぇ」
「はい、よくお似合いですね」

ロヴィーノが戸惑っているうちにアントーニョは
これもまたいつの間にか外されたヘッドドレスと共にエプロンを女主人に預けた。

「ほなこれ貰ってくわ。おおきにーまた頼むわ」
「お待ちしていますわ」

女主人に手を振って店を出ると、またアントーニョは俺の手を握った。

「おっおい!なんだ、これは!?」
「上着。昼間はあったかいけど、夜になったら冷えるから、着とき」
「…どうせなら男物の服も欲しかったんだが…?」
「えーっ折角かわえぇ格好しとるんやし、今日はそのままでおったって」

可愛いなんて言われても嬉しくないけど、
アントーニョがそういうなら仕方ねーな…とロヴィーノは
服については文句を言うのをやめた。
上質の布で作られたケープは肌触りがいい。
だから着ておいてやるのだ、と言い訳しておくのも忘れない。

「…そういえば、お前はよくこの格好で俺だって分かったよな」

茶髪のゆるふわウェーブのロングウィッグの毛先を弄びながら問うと
アントーニョは笑った。

「そりゃ分かるでー?なってったってかわえぇ俺のロヴィーノやし。
ロヴィがどこにおっても、俺は見つける自信あるで?
…例え十年逢ってなくてもな。ロヴィもそうやろ?」

最初逢った時に「どこかで会ったことがあるか?」を聞いたのを
アントーニョは思い出したのか、くすりと笑った。

「笑うな畜生!」
「やー、せやって嬉しいんやもん」

ロヴィーノのことが大好きだから。
そう言わんばかりの優しい笑顔にロヴィーノは恥ずかしさで
頬を真っ赤にして俯いた。


(…あ、昔もこんなこと思った気がするけど、)




(太陽、みたいだ)



熱くて、溶けそう。
そんな笑顔で見つめないで欲しい。
眩しくてしょうがないから。









*










街の中を特に目的もなく歩いて、
街を見渡せる小高い丘の上にある公園に辿り着いた。
日の暮れかけた空はオレンジ色で、その色に染まる街を眺めながら
綺麗だと呟くと、アントーニョもその景色を見ながら頷いた。

「良かった、気に入ってもらえて」
「…?」
「もうすぐここがロヴィの第二の故郷になるんやもん、
えぇとこやって思ってもらえたら、嬉しい」

笑顔でそういうアントーニョを直視出来ずにロヴィーノは視線を眼下の街並みに移した。
あとひと月でもう完全にロヴィーノとアントーニョの未来は途切れる。
隣を歩くのは許されず、お互いに違う道を歩いてすれ違うのだ。
そして、互いに別の人の隣を行く。
無情な現実を思い出し、ロヴィーノは泣き出しそうになるのを唇を噛んで堪える。

ずっと繰り返し夢に見続け、
どうしようもなく、好きなのに。

「――――――っそ、そういえばお前…機嫌直ったんだな」
「ん?機嫌…?」
「き、昨日会った時、素っ気なかったし、俺のこと知らないふりしただろーがっ」

ギルベルトだって機嫌悪いとおっかねーって言ってたしな。
でも今は終始笑顔でやっぱ昔と変わらないと安心したのだ。

「あぁ…あれな。あれはロヴィが悪い」
「は!?何で俺?俺なんもしてねーだろが」
「せやって、俺とは会ってもくれへんのにギルとのんびり旅行とかして…!
ほんま酷い話やわー」

むっと口を引き結ぶアントーニョを見て、あれ?と思う。
それは、つまり。

「やきもち、とか?」
「やきもちかて妬くやろー!こんな理不尽なことないで!!」

ポコポコと怒るアントーニョに自然と笑みが零れた。

(やきもち…そうか、やきもちか…)

「ふっ…くくく、」
「あっちょお、なんで笑うん!?かわえぇけど!!ここ笑うとこちゃうでぇ」

声を上げて笑ったのは久しぶりだった。
あまりに笑うのでアントーニョが情けなく眉を下げて困った顔をするので
ますますおかしくて笑えた。

「案外お前も子供っぽいとこあんだな」
「せやって、好きな子が自分やない男と一緒に居るのはえぇ気せんやろ」
「…まぁ、そうだな。笑って悪かった…、よ?」

好きな子。

そう、そうか。好きな子か。
アントーニョの思いがけない告白に気がついた途端、
猛烈に恥ずかしさが込み上げ、ロヴィーノは笑えるはずもなく真っ赤な顔を俯かせた。





(でも…――――――)





嬉しいけど、俺はこれに答えちゃいけないんだ。
この国の王子と結婚することはアントーニョも知っているはずなのに
どうして、今それを言うんだろう。

やっぱり逢わずに帰るべきだったのかな。




(このままじゃ、ほんとうに望んでしまう)





好きだというなら、その手で全て奪って欲しい、と。








この場所から、俺を連れて行って、と願ってしまう…――――――。














そっと手を伸ばす。
その手は縋るように、隣に立つアントーニョのマントを掴んだ。



「アントーニョ…、――――――」














【続く】

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今更だけど女装ロマーノさんは
すごく可愛すぎて親分は行き交う人(特に男)に
睨みをきかせつつ、手繋ぎで恋人アピールしてる…とかw

2014/11/17 up